2018 Fiscal Year Annual Research Report
温熱刺激がNrf2を活性化する新規機構の解明:がん性悪液質への温熱療法を見据えて
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17H04759
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Research Institution | Nippon Sport Science University |
Principal Investigator |
田村 優樹 日本体育大学, 体育学部, 助教 (20794978)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 温熱刺激 / Nrf2 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は、温熱刺激による骨格筋の質的変化について検討してきた。最近、温熱刺激による骨格筋の新たな質的変化として、温熱刺激が酸化ストレス応答性転写因子「Nrf2」を活性化することを見い出した。従来、Nrf2は、酸化ストレスによって活性化すると理解されている。しかし、温熱刺激によるNrf2の活性化は、酸化ストレス非依存的である可能性が示唆された。つまり、温熱刺激によるNrf2の活性化は独特であり、現在までの科学的知見では説明することができない。そこで本研究では、温熱刺激がNrf2を活性化させる生理的意義・分子メカニズムを解明することで、温熱刺激およびNrf2の研究領域における新分野の開拓に挑むことが目的である。 平成30年度は、平成29年度の研究により提示されたメカニズムの候補が、本当に主たる制御因子であるのか否かを検討するための実験系の構築を行った。まず、本研究に最も適当な骨格筋への遺伝子導入手法を検討するために、アデノ随伴ウィルスならびにエレクトロポレーションを用いた遺伝子導入の効率・期間・遺伝子導入量などを比較検討した。その結果、本研究プロジェクトにおいては、エレクトロポレーションを用いた遺伝子導入が最適であると判断され、プロトコールの最適化を行った。続いて、Nrf2の活性化を促す因子として、熱感受性カルシウムイオンチャンネルの貢献が示唆された。そこで、熱応答性のカルシウムイオンチャンネルの活動を評価するための実験系を構築した。本手法を確立したことにより、熱応答に伴うカルシウム動態をリアルタイムかつ細胞内の空間分解能を高めて測定できるようになった。 平成30年度は、主に実験系のセットアップ・新規測定手法の開発が主な取り組みとなった。次年度は、平成30年度に確立した実験手法を駆使して、温熱刺激によるNrf2の活性化動態を詳細に解明する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成30年度は、本研究に最も適当な実験手法の選定ならびに新しい評価手法の確立を行った。これにより、より妥当な実験条件の設定や高精度の測定が可能となったが、実際に温熱刺激による応答を評価するに至ってはいない。ただし平成30年度において、測定条件を検討を終えているため、次年度には、速やかにメインの課題の検証に取り掛かることが可能である。
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Strategy for Future Research Activity |
Nrf2が活性化するメカニズムとして、酸化ストレスの増大が考えられている。しかし、温熱刺激は、酸化ストレスの上昇を伴わずにNrf2を活性化させることが明らかとなった。さらに、オートファジー関連遺伝子としても知られているP62のリン酸化の亢進が、Nrf2を活性化させたメカニズムの候補であることを示唆する知見がすでに得られている。今年度は、骨格筋の培養細胞ならびにマウスの骨格筋組織でp62をノックダウンさせた際に、Nrf2の活性化応答が遮断されるか否かを評価する。なお、Nrf2の活性化の指標は、これまでの研究と同様に、Nrf2の標的遺伝子の発現量などを評価する予定である。また、市販のNrf2を認識する抗体が低品質である関係で、一部メカニズムの検証実験が昨年度までに遂行できていない。今年度はNrf2にタグを挿入したプラスミドを骨格筋細胞・組織に導入することで課題解決を試みる。 温熱刺激がNrf2を活性化する意義は現在未解明である。ただし、Nrf2は他の転写因子HSF1と相互代償的に機能している可能性を示唆する知見が得られている。したがって、今年度は、骨格筋の培養細胞ならびにマウスの骨格筋組織でNrf2およびHSF1のシングル・ダブルノックダウンさせた際に、どのような生理応答が遮断されるかを評価する。 Nrf2は、細胞の抗炎症に貢献する可能性が示唆されている。そこで、温熱刺激によってNrf2が活性化するのであれば、炎症が病因となる骨格筋の疾患に対して温熱刺激が有力なアプローチとなる可能性が考えられる。本研究では、がん性の悪液質に注目し、温熱刺激の治療法としての潜在性を検証する。癌性悪液質は、がんの細胞をマウスへ移植することで誘導する。骨格筋の重量、発揮筋力、ミトコンドリア機能などを測定・評価項目として予定している。
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