2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17H04816
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石井 順久 東京大学, 物性研究所, 助教 (40586898)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 高強度赤外光源 / 高次高調波発生 |
Outline of Annual Research Achievements |
固体からの高調波発生用の高強度中赤外光源の開発を無事に終了した。中赤外光源開発では既存のシステムに励起レーザーを導入して、高強度化を行っている。当初の予定では高強度化は新たなレーザーを購入予定であったが、所属研究室の既存のレーザーが使用可能であったため、これを流用した。現在の出力は中赤外の3.5マイクロメートルで、約120マイクロジュールであり、高次高調波発生実験のために十分な強度がある。この中赤外の光源についてはさらなる高度化を合わせて、現在Optics Lettersに投稿中である。 この光源を用いて、高調波発生実験を行った。GaSeからの奇数次の高調波の偏光が曲がることを見出し、理論の研究室との共同研究により、GaSeの最低伝導帯のバンドの逆有効質量と関連付けられることを世界で初めて実証し、また理論的な式を演繹した。この結果はPRLに投稿し、受理されて、すぐに論文になる予定である。また年度途中での実験結果より、理論的に予言されていたが、実証されていない、円偏光中赤外励起の高調波発生における選択則を実験的に実証した。この結果はOpticaに掲載済みである。 またGaAsからの高調波発生を世界で初めて反射配置で行い、バンドギャップを越える高次高調波発生に成功した。高次高調波発生の透過配置と反射配置では発生した高次高調波のスペクトル形状が全く異なり、反射配置における高調波のスペクトルが固体の応答を正しく再現していることが分かった。より高次の高調波発生を反射配置で行うことはこれまで世界で例がなく、またこの配置が固体の非線形応答を正しく予測できることから、これからの主流な実験手法となることが予想され、他の研究室にさきがけて、行っていく予定である。またこの結果自体はNature Photonicsに投稿予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
年度当初に計画していた励起のためのチタンサファイアレーザーの高強度化、並びに、中赤外光源の高強度化が完全に完了した。さらに中赤外光源の短パルス化を行い、中赤外でのスペクトル領域での1.8サイクルの電場発生に成功した。これは当初の計画になかったことであるが、研究遂行のために重要な役割を果たすと思われる。 中赤外光源で、GaSeからの高調波発生を行い、その偏光回転とバンドの形状について実験・理論両方の側面からアプローチして、高調波発生とバンドの波数依存する逆有効質量の関係性を明らかにした。この結果は年度初めの予定以上の成果である。さらには開発下中赤外光源で、円偏光励起高次高調波発生に成功して、さらに長年未解決であった、選択則の観測に成功している。これもやはり当初の目的にはなかったが、現在最先端の研究において重要な貢献である。最後に、固体からの高次高調波発生の長年の懸案であった位相整合条件について考察を行い、世界で初めて、反射配置での固体からの高調波発生に成功した。反射配置では透過配置に比べ、中赤外光パルスの伝搬効果が最小限に抑えられ、物質固有の非線形応答を抜き出すことに成功した。この反射配置での固体高調波発生はこれからの主流となる実験手法になると思われる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究推進方策として、以下の3点を進める。 1.高強度電場印加時の物質の応答の時間分解分光:固体に準直流の強電場を印加している時の過渡分光を、可視、紫外のプローブを入れ、固体の透過、反射スペクトル、光電子スペクトル等を測定し、バンド構造、並びに強電界下中の応答を調べる。 このためには中赤外の波長で決まる振動時間(6000 nmで20フェムト秒)より短いプローブ光発生と、中赤外光とプローブ光間のタイミングジッター制御が必要となり、光路ロックシステムの開発と構築を行う。 2.固体バンド構造決定と高調波計測装置開発:赤外光源でワイドギャップ半導体を励起して、非線形光学応答を誘起し、真空紫外、極紫外のスペクトル領域での計測を行う。高調波の光子エネルギーが典型的なブリルアンゾーン内の電子波数に対応しており、バンド構造の再構築に決定的な役割を果たすと考えられている。紫外線の偏光測定、並びに、時空間測定を真空内で行い全情報から詳細な伝導帯の形状を決定可能である。このための固体からの高調波発生チャンバーの後に光学素子導入系、紫外線集光系ならびに紫外分光器と飛行時間型光電子分光器を構築する。 3.デバイス応用と高繰り返しオールソリッド時間分解光電子分光システム:紫外線は化学反応追跡、光電子分光等の応用範囲が大きいスペクトル領域ではあるが、物質の屈折率が低く、透過率が低いために、光学素子を作成することが非常に困難かつ、高額である。本申請の極限的非線形光学効果を用いることにより、赤外光源の制御と固体高調波発生媒質の人工構造成型を通して、紫外高調波の特性制御(偏光,時間波形)を試みる。固体高調波発生では、発生に必要な強度が気体よりも低く抑えられており、高調波発生に必要なエネルギーが低く、高繰り返し化可能であり、適合性が良い。
|
Research Products
(13 results)