2018 Fiscal Year Annual Research Report
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17H04825
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
米田 剛 東京大学, 大学院数理科学研究科, 准教授 (30619086)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 微分同相写像群 / ヤコビ場 / 回転楕円面 / 零次則 / 渦伸長 / Navier-Stokes方程式 / Euler方程式 |
Outline of Annual Research Achievements |
Zeroth lawとは、流れ場が乱流であるための重要な条件の一つであり、特にOnsager予想の起源となっている。しかしながら、このzeroth law自体の数理的理解を目指す研究は今まで皆無であった。それが可能になったのは、Bourgain-Li(2015)やKiselev-Sverak(2014)等によるEuler方程式研究のbreakthroughが起きたからであろう。本研究では、そのzeroth-law、すなわち「エネルギー散逸率の非粘性極限の非消散」を実現するナヴィエ・ストークス方程式の滑らかな解の列の構成に成功した(In-Jee Jeong氏との共同研究)。これは、昨年度に示した「修正版zeroth-law」の発展版であり、実際のzeroth-lawに限りなく近いNavier-Stokes方程式の解の列となっている。
また、非線形性が卓越した流れ(特にEuler流)の長時間挙動を、リーマン幾何の微分同相群のアイデアによって詳しく調べた(Taito Tauchi氏との共同研究)。より具体的には、C^1に埋め込まれるソボレフ空間による微分同相群から生成される無限次元多様体がその洞察の出発点となる。その多様体上の測地線がEuler方程式の解となることが広く知られている(V. I. Arnold, 1966)。そして、その多様体の共役点のありかたを深く洞察することがカギとなる(幾何学サイドでも、共役点のあり方を調べることは、多様体の大域的構造を調べる際に重要である)。そのような状況を踏まえた上で、回転楕円面上のEuler流の安定性・不安定性を洞察した。特に、その回転楕円面という幾何学的構造が、帯状流(測地線、Euler方程式の定常解)に沿うヤコビ場に対して共役点を生成させることを示した。これはある種のLagrangian安定性を意味する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
昨年度に示した「修正版zeroth-law」はあくまで修正版であり、実際の粘性ゼロ極限よりも強い極限操作を課さざるを得なかった。一方で、今回のzeroth-lawは、その実際の粘性ゼロ極限の極限操作に限りなく近い。よって、これが「エネルギー散逸率の非粘性極限の非消散」を実現しているNavier-Stokes方程式の解の列とみなしてよいだろう。解の構成法は以下のように簡潔に説明される。まず、大スケールの渦が生成する歪み速度場が、渦軸が垂直になっている小スケールの渦を瞬間的に伸長するように大スケール・小スケールの渦を構成する。更に、長さスケールの2乗(実質的には3乗だが、2+1/2次元流を考えているので2乗となる)に反比例する形で渦の個数が増えるように渦を配置する。なお、この配置の仕方はspace-fillingと呼ばれており、乱流物理分野ではむしろ良く知られている。よって、ここで構成したNavier-Stokes方程式の解の列は、その発達乱流の素過程(例えばGoto-Saito-Kawahara 2017を参照)に近い。
現実の惑星が真に球ではなく楕円球の形状を取ってい事を鑑みて、そういった回転楕円面上の流体運動の研究はむしろ自然な流れだと感じていたが、それにも関わらず、回転楕円面上のEuler流の安定性・不安定性の研究は今まで皆無であった。そこでリー群と表現論の研究に詳しいTaito Tauchi氏との共同研究を推進させることで、特に、その回転楕円面という幾何学的構造が、帯状流(測地線、Euler方程式の定常解)に沿うヤコビ場に対して共役点を生成させることを明らかに出来た。今回の研究結果によって、楕円面上の流体運動研究の扉を開いたことになる。そのことによって、例えば、木星上の帯状流のメカニズム解明に貢献できるのではないかと期待している。
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Strategy for Future Research Activity |
今回のzeroth-lawの数学研究結果によって、発達乱流でみられる「エネルギー散逸率の非粘性極限の非消散」は、「大スケールの渦が生成する歪み速度場によって小スケールの渦が引き延ばされ、そしてその引き延ばしによって小スケールの渦がより小さなスケールへ素早く移動し、その結果、粘性の影響をより強く受け、散逸がより速くなる」というメカニズムによって説明できるのではないか、と予想するに至った。今後は、実際のNavier-Stokes乱流、すなわちNavier-Stokes方程式の大規模数値計算による数値解析を推進することによって、その発達乱流におけるzeroth-lawのメカニズムを解明する。
回転楕円面上のEuler流の安定性・不安定性研究のモチベーションとして、惑星、特に木星上に存在する帯状流のメカニズム解明が念頭にある。よって、方程式も通常のEuler方程式ではなく「コリオリ力つきEuler方程式」を取り扱う方が自然である。 今後の研究の方策として、そのコリオリ力付きEuler方程式における帯状流(測地線、Euler方程式の定常解)に沿うヤコビ場における共役点の洞察を推進させる。
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