2019 Fiscal Year Annual Research Report
高分解能数値シミュレーションで迫る初期宇宙の銀河進化メカニズム:多様性の解明へ
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17H04827
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
矢島 秀伸 筑波大学, 計算科学研究センター, 准教授 (10756357)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 銀河形成 / 輻射輸送 / 大規模構造 / 数値シミュレーション / ダスト |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、宇宙初期における多様な銀河の進化メカニズムを明らかにすることである。近年の観測により、宇宙年齢わずか約10億年に大量のダストに覆われた銀河、強いライマンアルファ輝線を放射する銀河、超巨大ブラックホールを持つ銀河などさまざまな性質の銀河が相次いで発見された。宇宙初期の短い間に、この多様な銀河進化を引き起こした原因は何であろうか? この疑問に答えるべく、大規模数値シミュレーションにより、多様性の起源について標準シナリオを確立することが本研究の目的である。 当該年度では、まず初代銀河の形成過程をズームイン法を用いた高精度な宇宙論的流体計算によって調べた。結果として、超新星爆発によるフィードバックでガスアウトフローが駆動され、星形成は間欠的に起きることが分かった。更に、激しく変化する星形成率、ガスの構造に対し、各フェイズにおいて多波長輻射輸送計算を実行した。まず、ハロー質量が10の10乗以下程度の時には、ガスが低金属なため、銀河は紫外線で明るくなる。一方、銀河内に金属とダストが蓄積していくと、スターバースト初期では星形成領域をダストが覆い、銀河は赤外線で明るくなることが分かった。その後、アウトフローのフェイズでは再び紫外線で明るくなることを示した。このように、銀河の観測特性の多様性は、超新星爆発などのフィードバックによりガスとダストの構造が大きく変わる事が要因の一つである事を明らかにした。 また、スターバーストの起源を探るため、輻射流体シミュレーションによって分子雲内での星団形成を調べた。結果として、分子雲が大質量かつコンパクトな場合、星からの紫外線フィードバック下の中でも星形成が続き、星形成効率が大きくなる事が分かった。これにより、スターバーストの条件として、銀河内で、大質量かつコンパクト分子雲の形成が必要である事を示唆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
宇宙論的流体計算と多波長輻射輸送計算を組み合わせる事で、観測されている銀河の多様性の起源を明らかにする事を計画していた。また、分子雲スケールでの星形成過程を同時に明らかにしていくことを目標としていた。当該年度では、ズームイン法を用いた高精度な宇宙論的流体計算による初代銀河形成の計算、モンテカルロ法を用いた多波長輻射輸送計算を実行する事が出来た。結果として、銀河の観測特性が超新星フィードバックによって大きく変化する様子を定量的に示す事に成功した。これに加え、CO分子による輝線放射についてもモデル化を行った。これらにより、アルマ望遠鏡やすばる望遠鏡、ハッブル宇宙望遠鏡など、多様な観測装置に対応した理論モデルの構築が可能となった。 また、これまでの銀河シミュレーションでは、分子雲内の星団形成はサブグリッドモデルが用いられていた。我々は輻射流体計算により、直接的に星団形成過程を定量的に明らかにした。このように、銀河形成過程、輻射特性、星団形成について理論研究を遂行する事が出来た。したがって、当初の計画通り概ね研究は順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により、初代銀河の観測性質の多様性、スターバーストの起源について示す事が出来た。一方で観測的には、大規模な銀河サーベイにより、遠方銀河に対してもさまざまな波長で統計量が示されている。したがって、今後は計算サンプルを増やしていき、統計的に多様性とスターバーストの起源を調べて行く。具体的には、さまざまな波長で観測した場合の銀河の光度関数、クラスタリング解析を行っていく。そのために、ズームインの計算領域を1辺10メガパーセク以上で用意し、計10個以上の領域で大規模な宇宙論的流体計算を実行する。特に、大規模構造内の高密度領域を計算する事で、銀河の多様性に対する環境効果を定量的に調べて行く。また、星団形成に関しては金属量、コンパクトネス、乱流場に対して広いパラメータレンジで計算し、星形成効率とこれらパラメータの間の依存性を明らかにする。これらに加え、銀河の多様性を引き起こす要因として超巨大ブラックホールも考慮する。現在の銀河シミュレーションの分解能でも、超巨大ブラックホール周囲の構造を精度良く計算する事は難しい。したがって、適切にブラックホールへのガス降着率、ブラックホールからのフィードバックをモデルとして導入する必要がある。まずは、これらの適正なモデル化を調べ、その後超巨大ブラックホールが与える銀河への力学的影響、その際の観測特性について調べる。
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Research Products
(14 results)