2018 Fiscal Year Annual Research Report
全天ガンマ線データの統計的解析による暗黒物質粒子の探査
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17H04836
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
安藤 真一郎 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 客員科学研究員 (80791970)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 暗黒物質対消滅 / 高エネルギー天体 / 全天ガンマ線解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
暗黒物質サブハローの解析的モデルを構築し、成果を"Modeling evolution of dark matter substructure and annihilation boost", Nagisa Hiroshima, Shin'ichiro Ando, Tomoaki Ishiyama, Physical Review D誌、97巻、123002 (2018)として出版。 そしてそのモデルを用いてガイア衛星のデータ解析結果の解釈を行なった。その成果は"A Gaia DR2 search for dwarf galaxies towards Fermi-LAT sources: implications for annihilating dark matter", Ioana Ciuca, Daisuke Kawata, Shin'ichiro Ando, Francesca Calore, Justin I. Read, Cecilia Mateu, Monthy Notices of the Royal Astronomical Society誌、480巻、2284ページ、(2018)として出版。 本研究計画の解析の骨組みとなるパワースペクトル解析を、IceCube実験によって検出された高エネルギーニュートリノのデータへの適用を行ない、その成果を "Angular power spectrum analysis on current and future high-energy neutrino data", Ariane Dekker, Shin'ichiro Ando, Journal of Cosmology and Astroparticle Physics誌、1902巻、 002 (2019年)として出版した。 暗黒物質サブハローによる対消滅ブーストの計算について、過去の研究を総括したレビュー記事を、エディターの依頼をうけ、Galaxies誌、特別号"Halo substructure boosts to the signatures of dark matter annihilation"へと投稿。現在査読中である。こちらのレビュー論文は"Halo substructure boosts to the signatures of dark matter annihilation", Shin'ichiro Ando, Tomoaki Ishiyama, Nagisa Hiroshima, arXiv:1903.11427 [astro-ph.CO]として公開済みである。 これらの成果を元に国際研究会TeV Particle Astrophysics 2018、COSMO 2018、Dark Ghosts 2018、日本物理学会等で多数講演。また領域シンポジウムにおいても進捗状況の報告を行なっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
銀河分布や重力レンズマップとガンマ線とのクロス相関を議論する上で、暗黒物質サブハローの存在を無視することはできない。前年度より構築を行なっていた解析的なサブハローのモデルがひとまず暫定的ではあるが完成したので、まずは最初の論文をPhysical Review D誌に出版。さらにGalaxies誌の特別号のためのレビュー記事を依頼を受けて投稿した。 また同モデルを用いることで、最新のガイア衛星データの解析結果に独自の解釈を与えることを試みた。具体的にはフェルミの未同定天体、特に暗黒物質サブハローの候補と先行研究で考えられている領域におけるガイアデータの解析を行い、サブハローの兆候を探した。その結果いずれにおいてもサブハローの証拠は見つからず、自身のサブハローモデルを用いることにより、全てのフェルミ未同定天体が暗黒物質サブハローであることを棄却することに成功した。 様々な銀河カタログや重力レンズマップとのクロス相関の解析を進めるため、まずはフェルミ衛星の検出ガンマ線データ解析を行った。とりわけ角パワースペクトルを計算し、その結果が先行研究と一致することを確認した。さらには1点確率分布関数をより精度よく求めるため、スキューネスと呼ばれる分布関数の3次のモーメントを計算することに着手した。それと同時にクロス相関を取るための銀河カタログの選定を行い、データの抽出を行なっているところである。 他方で重力レンズマップに関してはDark Energy Survey Collaborationとの共同研究を取る形で進めており、成果を論文にまとめているところである。 さらには本研究計画で得られた知見を生かし、高エネルギーニュートリノのデータ解析に適用した。これはこの分野にとっては新たな試みであり、分野を超えたあらたな視点の提供に一役買ったいうことができる。
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Strategy for Future Research Activity |
角パワースペクトルによってガンマ線源の空間情報、銀河や重力レンズカタログとのクロス相関によって距離情報が得られる。これらをエネルギーのビンに区切って同時に用いることで、エネルギー、位置、距離の情報をすべて活用した解析が可能となる。この課題に取り組み、暗黒物質探査にとって最高感度の達成をめざす。 エネルギースペクトルと角パワースペクトルは、フラックス確率分布関数の平均と分散にそれぞれ対応する物理量である。分布関数が正規分布であると知られている場合は、このふたつの量を研究することですべての情報が得られる。しかしながらほぼ全てのガンマ線源の場合、フラックス確率分布は冪則にしたがうテイルを持つことが、本研究代表者らによって理論的に示されている。Nicolao Fornengo教授(トリノ大学)のグループと共同で確率分布関数の解析に当たる。Fornengo教授らのデータ解析の経験(Zechlin et al. 2016, Astrophys. J. 826, L31)と研究代表者のグループで構築した理論的計算の経験を組み合わせることで、確率分布関数のデータを暗黒物質モデルに照らし合わせて解釈していくことを計画している。 これらのデータによって得られた結果を理論的に解釈するにあたって、暗黒物質サブストラクチャーによる対消滅ブーストを適正に計算しておく必要がある。この対消滅ブーストの計算を、構築済みの解析的モデルに対してさらなる精密化を施していくことで、進めていくことを計画している。さらに銀河ハローの形成史に対する依存性を詳細に研究していく。
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