2017 Fiscal Year Annual Research Report
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17H04845
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高橋 陽太郎 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (30631676)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 光物性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題ではスピン秩序がつくるカイラリティを対象として、カイラリティを持つ系の特徴である自然旋光性の観測とその微視的メカニズム解明、スピンを用いることで可能となる電場によるカイラリティの制御、またカイラルドメインの時空間観測等を目的とした研究を行っている。 らせん型のスピン秩序はカイラルな対称性を有することから、CuOとCuFeO2という物質のらせん磁性相を対象とした研究を行った。カイラリティの観測するためには自然旋光性による偏光回転を検出する必要があるが、エレクトロマグノンというらせん磁性体固有の素励起の共鳴において自然旋光性を観測することに成功した。ここでは時間領域テラヘルツ分光法を用いた偏光解析を用いた測定を行った。外場により右巻きと左巻きのらせん型のスピン秩序を制御することで、カイラリティの反転による偏光回転の符号の反転も実現した。CuOでは、エレクトロマグノン上での電気磁気光学効果とスペクトル構造や強度を定量的に比較し、らせん磁性体での自然旋光性のモデル化を行った。更に電場パルスのみを印加することでカイラリティの反転を実現した。これらの成果は本課題の最初のテーマであるスピンの持つカイラリティをプローブする手法の確立に成功したことを示している。また自然旋光性を利用した電場による偏光制御の新しい手法の実証という意味も持つ。 一方で、カイラリティが外場で制御可能なフェロイクスのひとつとして扱うことが可能となったことで、そのドメイン制御や構造、ドメイン壁のダイナミクスなど新たな物性が発現する。ドメイン壁のダイナミクスの解明は、ドメイン制御の指針となるだけではなく、ダイナミック相転移など多彩な物理を含むことが理論的に指摘されている。これを観測するために、自然旋光性を用いたドメイン壁ダイナミクスの測定手法の開発を行い、その観測に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は「スピン構造に由来したカイラリティの基本応答となる自然旋光性の特性と微視的メカニズムの解明」と「電場によるカイラリティの制御を実現」を計画した。このうち、前者についてはCuOとCuFeO2という2種類のらせん磁性体を用いることでエレクトロマグノン共鳴における偏光測定により自然旋光性の観測に成功した。マルチフェロイクスで提案されたスピン誘起電気分極のメカニズムを光学応答に拡張することで自然旋光性の微視的な機構が説明可能であることを示した。一方、スピンに由来したカイラリティの特徴であるフレキシビリティを利用し、電場によってカイラリティが反転することを自然旋光性の符号反転から観測することに成功した。 更に平成30年度の研究項目である「カイラルドメインの時空間観測」のため、自然旋光性を用いたドメイン壁ダイナミクスの測定手法を構築し、ドメイン壁ダイナミクスの観測に成功した。ドメイン壁の応答関数を測定することで、温度・電場・周波数に対応したドメイン壁のダイナミクスの転移を観測した。 以上のように、研究計画を超える進捗状況であるため「当初の計画以上に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度はテラヘルツ帯の自然旋光性を用いることで、ドメイン壁ダイナミクスの計測に成功した。今後は理論的に提唱されているダイナミック相転移の実験的観測と、ドメイン壁ダイナミクスにおける一般的な相図の解明を目指す。これは、温度・外場・周波数の3次元上でのダイナミクスを明らかにすることに対応する。また、カイラルドメインの空間構造の観測にも取り組む。高い空間分解能を得るために、スピン構造に由来した可視領域の自然旋光性の観測を目指す。電場、磁場下でのドメインイメージングからドメイン壁の運動とドメイントポロジーの関連性を明らかにする。また、強磁性ドメイン壁とカイラルドメイン壁の共存による複雑なドメイン構造や複合ドメイン壁の存在など、マルチフェロイクス特有のドメイン特性の開拓を目指す。 また、スピン由来のカイラリティの連続制御を自然旋光性をプローブとすることで観測することを目指す。比較的弱い磁場で制御可能ならせん磁性体を用いて、回転磁場下での自然旋光性のイメージングから、自然旋光性による偏光回転角の定量的観測を行うことで実現する。 これらの実験のために、イメージング光学系の構築を行う。その準備として、分光測定による自然旋光性の波長依存性の観測を行う。試料の透過率と回転角から最大の検出効率が得られる波長においてイメージング測定を行う。
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