2017 Fiscal Year Annual Research Report
バルクラシュバ半導体の分極反転を利用したスピン電荷変換の極性制御
Project/Area Number |
17H04846
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
吉見 龍太郎 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (40780143)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 電流誘起磁化反転 / マルチフェロイクス / 磁性半導体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は、磁性元素Mnをドープされた極性強磁性半導体(Ge,Mn)Teにおいて、半導体マルチフェロイクスとしてのスピントロニクス特性を観測し、更に誘電分極反転による制御を行うことである。研究計画一年目の本年は、[1](Ge,Mn)Teの薄膜試料作製を行い、その上で[2]スピントロニクス特性として電流誘起磁化反転の観測を行った。 [1]試料作製についてSb2Te3の緩衝層を用いることでInP基板上に再現よく菱面体晶(Ge,Mn)Te薄膜を成長させることに成功した。本化合物(Ge,MnTeはMnドープによって強磁性を示すが、ドーピング濃度の増加に伴って結晶構造が菱面体晶から立方晶に転移し強磁性転移温度が低下することが単結晶や薄膜試料における先行研究によって知られている。本研究で作製した試料は緩衝層による効果で菱面体晶構造が安定化し、その結果高い強磁性転移温度を示すことがわかった。 [2]バンドのスピン運動量ロッキングに由来するスピン電荷変換を電流誘起磁化反転によって観測した。特に、磁化反転の効率が膜厚に対して減少しない振る舞いを見せることから、表面や界面のらシュバ効果に由来する効果ではなく、極性半導体に特徴的なバルクバンドのスピン運動量ロッキングによるものであることを示した。更に、異常ホール効果とバンド計算との比較から試料のキャリヤ濃度が磁性誘起ギャップ近傍に制御されていることを指摘し、フェルミ面の変化に対応して電流誘起磁化反転の効率が増加していることを示した。 これらの結果は国際学会2件(うちポスター発表1件、口頭発表1件)と国内学会で1件の口頭発表を行った。また論文を現在投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的の一つであるバルクラシュバ半導体におけるスピン電荷変換を観測しただけでなく、キャリヤ数の変化によるフェルミ面のスピン偏極性の変化を捉えることができたためである。 ラシュバ半導体のスピン偏極バンドは内側バンドと外側バンドの2つに分裂するが、両者のスピン電荷変換特性は符号が逆であり相殺する。一方、強磁性秩序を発現し時間反転対称性が破れることでバンド交差点に磁性誘起ギャップが開く。この状況でフェルミ準位をギャップの中に制御することで、内側バンドがフェルミ面から消失し磁化反転効率の上昇に繋がる。上記のアイデアは本研究計画が掲げるスピントロニクス特性制御の一つであるが、これを実際に実現した。
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Strategy for Future Research Activity |
進捗状況で述べた強磁性ラシュバ系におけるフェルミ準位依存性の知見を更に深める。今後の方針として、フェルミ準位依存性を試料作製条件によって系統的に制御する。具体的には分子線エピタキシー法によって供給する分子線供給比を制御する。その上で、抵抗の方向二色性など、反転対称性の破れた系に特有の物性観測を行う。並行して、電界効果による極性反転も継続して試みる。強磁性ラシュバ半導体におけるフェルミ準位依存性はこれまで他の物質系で議論されておらず、極性強磁性半導体のモデル物質として(Ge,Mn)Teの物性開拓を行う。
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