2019 Fiscal Year Annual Research Report
Elucidation of thermodynamic roles of hydration structure in protein functions
Project/Area Number |
17H04854
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
苙口 友隆 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 講師 (90589821)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 蛋白質分子 / 水和構造 / 蛋白質ダイナミックス / 分子動力学シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、「蛋白質の構造変化過程における水和構造の役割の解明」、「蛋白質の基質認識過程における水和構造の役割の解明」を目的としている。その目的のモデル系として、昨年度から、IgG抗体における抗体認識ドメインであるFvフラグメントを用い、溶媒分子を露わに含んだ全原子分子動力学(MD)シミュレーションを行った。その結果、Fvフラグメントの構造は、基質認識可能な活性状態と基質が結合できない阻害状態の両方を行き来しており、その構造変化において水和構造の変化がスイッチとして働いていることが明らかになった。申請者はこれまでの研究において、グルタミン酸脱水素酵素(GDH)においても、水和構造が基質認識に必須なGDHの構造変化を制御していることを明らかにしており(Sci. Rep. (2016))、これらの研究成果は、水分子が生体分子にとって単なる媒体ではなく、その機能発揮機構において積極的な役割を果たしていることを明らかにしつつある。 もう一つの研究実績は、低温電子顕微鏡法(cryoEM)によって得られた溶液中の生体分子構造を参照として、MDシミュレーションにおいて用いるポテンシャル関数のパラメータ(力場セット)の信頼性評価を行ったことである。本研究実績は、本研究課題の遂行に必須なMDシミュレーションの信頼性を評価したものであり、重要な基礎研究である。cryoEMの構造情報は局所構造・全体構造の情報を共に含んでおり、MDシミュレーションにおける分子構造の評価に有用だと思われるが、低解像度・分子量の大きさ等の問題により、これまで用いられたことはなかった。本研究では、高解像度で得られたcryoEMデータを用いた力場セットの評価を世界で初めて行った。その結果、AMBER ff15FB力場が最も良く実験データを再現し、対してCHARMM系の力場は再現性が低いことが明らかになった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に記したように、本年度はFvフラグメントの全原子MDシミュレーションを行い、その抗体結合抑制を制御する構造変化、およびに、その動作メカニズムに水和構造が深く関わることを明らかにしている。現在、さらなる解析と並行して、論文執筆作業を行っている。また、電子顕微鏡実験によって得られている酵素構造中の二次構造安定性を再現する、水分子力場モデルと蛋白質力場モデルの組み合わせを見出しており、その結果についても論文執筆作業を行っている。したがって、現時点では研究は順調に進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
Fvフラグメントについては、抗体結合型のX線結晶構造が得られているため、今後はCDRH3領域の開構造について抗体結合過程のMDシミュレーションを行い、結合における水和構造変化とその役割を解析する予定である。自然なMDシミュレーションでは抗体結合を引き起こすことは困難が予想されるため、MD手法の開発を行う。 また、初年度において開発した力場モデルは、アミノ酸側鎖の電荷パラメータに対しては最適化を行ったものの、主鎖の電荷パラメータに対しては、結晶構造解析データの整理が不十分であったため行っていない。アミノ酸主鎖は2次構造形成等、蛋白質の構造形成において重要な役割を果たすため、その電荷パラメータの決定も重要である。本年度は、結晶構造解析データを再整理することにより、アミノ酸主鎖に対して実験水和構造を構築し、それを用いてアミノ酸側鎖の電荷パラメータを決定する。また、電荷決定の計算プロトコルにおいては、真空中での量子化学計算から決めた静電ポテンシャルを用いたため、窒素原子に対する実験水和構造を一部再現することができなかった。今年度は、陰溶媒を用いた量子化学計算を電荷決定の計算プロトコルに採用することで、この問題についても改善を行う。
|