2019 Fiscal Year Annual Research Report
非貴金属アミノカルコゲノラト錯体の水素ラジカル反応場におけるMeOH光脱水素化
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17H04871
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
松本 剛 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 特任准教授 (40564109)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 電子 / プロトン / 鉄錯体 / 参加還元活性配位子 / 水素発生 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、非貴金属イオンと電子移動活性配位子(芳香族アミン、芳香族カルコゲノラト、およびカルコゲニド)からなる非貴金属錯体を用いて、「室温で駆動するMeOH脱水素化触媒反応系」の構築と、そこから派生すると期待される「種々の小分子の変換触媒反応系」を構築することを目的に検討を行なった。本系の目的を達成するための鍵は、酸化還元活性な非貴金属錯体において、配位子部位が潜在的に有すると期待される新しい反応性を見出すと当時に、反応に伴う錯体の電子的および分光学的性質の変化を理解する点にある。 その点を踏まえ、2019年度は、非貴金属である鉄のニ価イオンと酸化還元活性配位子である芳香族アミン配位子(o-phenylenediamine(opda))からなる電子・プロトン移動活性錯体を合成し、それらの酸素およびヒドラジンを酸化還元剤に用いた多電子多プロトン移動活性に関して検討を行った。その結果、還元型opda、およびopdaの二電子二プロトン酸化型配位子であるo-benzoquinodiimine(bqdi)をもつhomoleptic型錯体[Fe(II)(opda)3]2+および[Fe(II)(bqdi)3]2+の六電子六プロトン移動反応における中間体であるheteroleptic型錯体[[Fe(II)(opda)2(bqdi)]2+および[[Fe(II)(opda)(bqdi)2]2+の合成と単離同定に成功した。さらに、opda配位子を有する各錯体の光反応により、水素発生反応が進行することを見出した。これらは、完全配位子ベースの六電子六プロトン反応であり、非貴 金属錯体に立脚した電子プロトン移動(または水素)貯蔵システムの創出を期待させる重要な結果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、非貴金属イオンと電子移動活性配位子(芳香族アミン、芳香族カルコゲノラト、およびカルコゲニド)からなる非貴金属錯体を用いて、「室温で駆動するMeOH脱水素化触媒反応系」の構築と、そこから派生すると期待される「種々の小分子の変換触媒反応系」を構築することを目的としている。現状、酸化還元活性な非貴金属錯体を用いたMeOHの脱水素化を可能にする光触媒反応系創出に向けた触媒開発および反応効率の大幅な進展には至っておらず、その点においては進捗は若干遅れている。しかし、多電子多プロトン移動活性な配位子を有する鉄錯体において、興味深い電子・プロトン状態と、それに連動した錯体の磁気的性質の変化という、非貴金属錯体を用いた触媒材料および化学エネルギー変換反応を実現する上で、当初想定しなかった非常に重要な知見が得られている。 今後、当初予定していたMeOHの光脱水素化に加え、本課題で新たに見出された光水素発生やCO2固定化等の反応に関しても理解を深化させ、反応効率の向上を目指してさらに検討を進めるべきと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの検討として、酸化還元活性配位子を有する鉄錯体を用いた反応により、配位子が多電子多プロトンプーラー、および反応活性点とする光水素発生、MeOHの光脱水素化、およびCO2を炭素源とするベンゼン環C-Hの光カルボキシル化が進行することを見出している。さらに、有機硫黄試薬を用いた独自の反応機構解明に関する検討により、それらの光反応機構に水素ラジカル形成が関与していることを明らかにしている。これまで、生物無機化学および有機金属化学における基質活性化反応において、カルボラジカル、カルボキシラジカル、およびヒドロキシラジカル等を鍵活性種とする反応が活発に研究されてきている。これらとは対照的に、水素ラジカルはその存在を示唆する推定反応機構は幾つか提唱されているものの、それを合目的に発生させ目的とする物質変換反応を進行させた例は殆どない。本系は、芳香族アミン配位子と非貴金属からなる金属錯体から、光化学的に発生させた水素ラジカルの特異な反応性が切り開く新しい物質変換反応である。今後は、前述の既に得られた知見とそれに基づく反応の理解をさらに深化させ、中心金属効果や配位子効果の影響を系統的に検証し、錯体骨格と反応性の相関関係、および基質汎用性を明らかにする。最終的には、本系の特徴である電子・プロトン移動活性配位子を有する非貴金属錯体からオンデマンドで発生させた水素ラジカルを鍵活性種とする、本系の特異な化学エネルギー変換および物質変換反応を体系化するための礎を築くことを目標とする。
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Research Products
(7 results)