2018 Fiscal Year Annual Research Report
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17H04897
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
坂井 建宣 埼玉大学, 研究機構, 准教授 (10516222)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 分子動力学シミュレーション / 粘弾性挙動 |
Outline of Annual Research Achievements |
側鎖が粘弾性特性に及ぼす影響を定量的に評価するために、側鎖が付いていないPE、メチル基が付いたPP、塩素が付いたPVC、ベンゼン環が付いたPSを対象として応力緩和解析を行った。はじめにおおよその分子の動きを把握するために重合度を10とした一本鎖モデルを作成し、応力緩和解析を行った。その結果、応力緩和挙動に対して非結合エネルギの影響が支配的であることが明らかとなった。またその理由として、側鎖同士の相互作用の強さが影響を及ぼしていることが明らかとなった。また非結合エネルギの時間変化については、側鎖の分子量と相関関係があることが明らかとなった。これより側鎖が大きい方が応力緩和挙動を発現しやすいことが示唆された。また重合度を50、本数を100本導入したバルクモデルについても同様の解析を行った。その結果、一本鎖モデルと同様に側鎖の分子量が大きいほど、総ポテンシャルエネルギーの変化が大きい結果が得られた。しかしバルクモデルでは非結合エネルギだけでなく、ねじり角にも側鎖の分子量と相関関係が見られた。また側鎖の大きさが大きいポリスチレンについては、一本鎖モデルとは異なる挙動を示すことが明らかとなった。バルクモデルにおいてはベンゼン環の大きさ故に、分子鎖の移動が妨げられたと考えられる。今後はベンゼン環に注目して動き解析を行うことも検討に入れる必要がある。 また、PE・PP・PVCを対象として引張解析を行った。その結果、引張解析中に密度が低い部分が発生した。密度が低い部分を定量的に評価するために、全体の1/10の密度になった部分(空孔)が発生したときの発生応力をまとめた。ひずみ速度が高い・温度が低い場合において、空孔発生応力が高くなる傾向が見られた。また、側鎖の有無・種類によって分子鎖の配向度の変化が異なること、また非結合エネルギが増加することによって空孔部が発生することが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度にモデル作成手順の検討、また応力緩和解析結果からの粘性・弾性に寄与する因子の提案等が、また2年目には側鎖が粘弾性特性および引張破壊特性に及ぼす影響を明らかにすることができており、現状ではMD解析は順調に進んでいると思われる。しかし、応力緩和・引張解析などの力学的な解析は行えているが、結果が実験値と大幅にずれており、ひずみ速度の速さ分を考慮したとしても明らかに大きすぎる値が算出されている。この原因としては、モデル作成手順方法・解析手法の妥当性などが考えられるが、作成方法については初年度に詳細な検討を行っており問題はないと思われる。そのため解析手法の見直しが必要となった。原因の一つとして粗視化モデルであるUNITED ATOMモデルを利用していることが挙げられる。しかし解析時間の関係で全原子モデルの利用がこれまで困難であったため、代替となる解析ソフトを探した結果、高分子専用のGromaxに切り替えることで、問題の回避が可能であるだけでなく、大幅に計算速度が向上することがわかった。現状では進捗が遅れている状態ではあるが、最終年度にすべての結果を出すことは可能であると考えている。 また実験については、原子間力顕微鏡およびレーザー顕微鏡を使用することが可能となったため、引張試験中のクレイズ等の発生挙動を正確に見るために、顕微鏡下引張試験装置を購入した。しかし、顕微鏡下引張試験装置の設計に関して調整が遅れてしまい、現状ではまだ結果を出せていない。そのほか動的粘弾性試験により粘弾性特性の計測はすでに行っており、時間-温度換算則を用いてMD解析を行うような短時間領域での粘弾性特性の把握を可能としている。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までにおける解析結果の妥当性が危ぶまれるため、今年度はすべての解析を再度行う必要がある。そのためにワークステーションでのGromaxの使用およびGromaxが導入されている計算サーバー(Exabyte.io)も併用することで、加速的に解析速度を向上させ、これまでのような粗視化モデルではなく全原子モデルにおいてより大きな分子数の解析を行う。そのため、ワークステーションのOS変更や設定の変更を行うとともに、計算サーバーへの接続方法なども確立する必要がある。最終年度の予算として、Exabyte.ioへの接続料金を予算計上する。また、これまでの解析条件について再度すべて解析を行い、応力緩和中の各ポテンシャルエネルギーの増減と分子を構成する側鎖の影響を定量的に評価すること、空孔の発生に関する温度・ひずみ速度の影響と側鎖の影響の評価を行う。また新たにクリープ解析を行うことで、分子のすり抜けの有無・粘性への寄与、応力緩和解析との相違などを明らかにし、粘弾性挙動における側鎖の影響をより明確にする。 実験的にも、レーザー顕微鏡・原子間力顕微鏡下でマイクロオーダーの引張制御を可能にすることで、薄膜のクレイズ生成挙動の観察を行い、MD解析結果との比較を行うことでMD解析結果の妥当性の検討を行う。それ以外に、昨年度と同様に静的試験を様々な温度・ひずみ速度で行うことで破断試験を行い、得られた破断面をレーザー共焦点型顕微鏡および原子間力顕微鏡によって3次元マッピングを行う。その結果とMD解析の結果における類似点を見つけ出し、MD解析の妥当性の検討を行う。 以上の知見を踏まえて、MDによる側鎖が粘弾性挙動・破壊挙動に及ぼす影響と定量的に評価し、任意の側鎖を有する高分子材料における粘弾性挙動・破壊挙動を予測可能にする。
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