2019 Fiscal Year Annual Research Report
社会環境と行為の共進化による自律分散的な都市・交通システム創発現象のモデル分析
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17H04938
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
力石 真 広島大学, 国際協力研究科, 准教授 (90585845)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 自律分散的な都市・交通システム / 社会的相互作用 / 社会的選好 / 共進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,スラム特有の都市秩序の形成,過疎地域における自主的な生活関連サービスの運用といった,(計画行為や需給メカニズムではなく)自律分散的に都市・交通システムが構築される現象を,「社会環境に適応しようとすることによって人々がその環境を集合的に再構築する(=社会環境と行為の共進化)」と考え,その創発メカニズムを理論的に解明した上で,創発現象を表現する実証モデルを構築する.具体的には,4年間の研究期間中に,このようなモデル構築が,都市・交通システムに直接介入する中央集権的な計画行為の影響と,社会規範への介入や社会関係資本の強化を通じて各主体のより良い適応行動を期待する自律分散的施策の影響を,統一された理論フレームの下で評価可能となることを,2つの実証分析例を通じて示す. 上記目的を達成するために,令和1年度は日本の中山間地域において収集した行動調査データを用いて,社会的選好の形成に及ぼす影響要因を分析し,社会的選好を内生化した統合型都市交通モデルの構築を試みた.モデルシステムのサブコンポーネントとして,まず,2018年度に構築したRecursive logitモデルを援用した生活行動モデルを改善し,社会的選好の影響を考慮したモデル構造に拡張した.また,そのような行動実態と施設立地,交通サービスとの関係性を記述するトイモデルを構築した(実証分析は未実施).以上のサブコンポーネントを持つモデルシステムを組み,数値実験を行うことで,認識システム(社会的選好)の変化が物的システム(施設立地や交通サービス)に影響を及ぼす状況をシミュレートした.併せて,集団がCollectiveに持つ社会的選好の形成過程を記述するモデルの構築を試みるため,地域の公共財(道の駅)への支払意思額を尋ねる調査を実施し,支払意思額に影響を及ぼす要因の分析を進めた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
自律分散的に都市・交通システムが構築される現象を記述するためのモデルシステムの概要は概ね提案できているものの,実証分析が不足しており,モデルの妥当性がデータによってサポートされていないため,やや遅れていると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は,まず,今後の研究の発展につなげることを企図して,自律分散的に都市・交通システムが構築される現象を,コモンズ(人々が協働でモノやサービスを生産し,共有し,管理する自主管理組織)の概念を応用しながら整理する.また,これまでの社会的相互作用の研究を拡張し,コモンズを通じて自発的に提供される公共サービスを扱うことのできる定量的なモデリングフレームを提示する.加えて,少子高齢化社会における都市・交通施策との関連性を明確にする.具体的には,都市から地方への再配分を前提とした行政主導の地域づくりでは複雑化・多様化した地域社会の課題に対応しきれないことが明らかになるにつれ,地域住民が自立的・自発的に公共サービスの提供を担う共同体づくりが重視されるようになってきている点を踏まえ,コモンズの創発を促すための政策議論を整理することを目指す.
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