2017 Fiscal Year Annual Research Report
多元系固体イオニクス材料に対する高精度ハイスループット・スクリーニング手法の開発
Project/Area Number |
17H04948
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
豊浦 和明 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 研究員 (60590172)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 固体イオニクス / プロトン伝導性酸化物 / ハイスループット・スクリーニング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,多元系固体イオニクス材料に対するハイスループット・スクリーニングの実現に向けて,計算材料科学分野の第一原理電子状態計算と情報科学分野の統計的機械学習を連携させた高速かつ高精度なイオン伝導解析手法の開発を行うことを目的としている.また,本提案手法の有用性を実証するために,中温域で稼働する燃料電池の電解質材料として期待されるプロトン伝導性酸化物をターゲットに無機結晶構造データベース (ICSD) をスクリーニングし,プロトン伝導性未知化合物群を発見することを最終目標とする. 一般に,結晶中の伝導キャリアは最安定サイトを起点に熱活性化過程により長距離移動するが,その移動速度の決定因子は,ホスト結晶中の「最安定点」とそれを繋ぐ「障壁の低い最適経路上の最大エネルギー点」(以下,ボトルネック点) のポテンシャルエネルギー差 (ポテンシャル障壁) である.本研究では,これら2点のみを伝導の支配領域と定義し,その支配領域から選択的にPEを評価する方法論の構築を試みた.ここでの問題は,通常のカウス過程に基づくベイズ最適化ではボトルネック点に対する予測が困難である点にある.これを解決するために,本研究では,PESの確率モデルから多数のPESサンプルを発生させ,各PES上におけるボトルネック点の集合を尤度分布とみなすことに着想した.これには多数のPES上で最適経路を探索する必要があり,一次独立な3つの最適経路を高速で探索するアルゴリズムの開発も行った.さらに,プロトン伝導性酸化物として知られる立方晶ペロブスカイト型BaZrO3や正方晶シーライト型LaNbO4に本手法を適用した結果,それぞれ30点および100点程度のPE評価で,伝導の支配因子であるポテンシャル障壁を精確に見積もることに成功した.また,他の十数種の酸化物についても同様の評価を行い,提案手法の汎用性の確認も既に終了済である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では,(1) 高効率な第一原理PES評価手法の確立,および (2) 無機結晶構造データベース (ICSD) の整理,の2項目を平成29年度の実施項目としていた.(1) については,研究実績概要にも述べたように,すでにガウス過程に基づくベイズ最適化と経路探索アルゴリズムを組み合わせた新しい手法を開発し,その汎用性テストまで終了している状況にある.また,(2) についても並行して実施しており,ICSDからの酸化物抽出と結晶構造分類は現時点で終了している.なお,(1) の成果をまとめた論文については,既にPhysical Review B誌に掲載されている.さらに,平成30年度以降に実施する膨大数のプロトン伝導性酸化物のPES評価を見据えて,これらを全自動化する計算環境の整備も終了している.このように,当該年度の実施項目だけでなく次年度以降に向けた準備にも着手しており,計画は順調に進んでいる状況といえる.
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度からは,前年度に開発した第一原理PES評価手法を用いて,ICSDに収録されている膨大数の酸化物を対象にプロトンのPES評価を開始する.ただ,ICSDには酸化物の結晶構造が6,000程度収録されており,これらを全て評価することは現実的でない.そこで,本研究では,物理化学的かつ実用的な観点から予め構成元素を絞り込む方策を取る予定である.具体的には,①燃料電池の電解質利用という観点で酸化・還元雰囲気下で安定,②実用的な観点から資源が豊富,という2条件を満たす元素で構成される酸化物に対象を絞り込む.実際,この観点でICSDを整理すると評価対象となる構造数は500件前後であり,残りの研究期間内 (2年間) に十分評価可能な分量となる.また,PES評価を加速させるために,現在研究室に保有している計算資源に加えて京都大学学術情報メディアセンターのスーパーコンピューターを併用する予定である.
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