2018 Fiscal Year Annual Research Report
Laser control of collision relaxation of excited atoms for highly efficient isotope separation of radioactive cesium
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17H04978
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
松岡 雷士 広島大学, 工学研究科, 助教 (50455276)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 原子・分子物理 / 反応・分離工学 / 半導体レーザー / 核変換 / プラズマ計測 / 数理物理 |
Outline of Annual Research Achievements |
放射性セシウムの高効率レーザー同位体分離に適用可能な光誘導ドリフト現象の観測実験装置開発を中心とし、理論・実験の両面から原子間衝突による速度緩和が支配的となる圧力環境下での気相原子ダイナミクスのレーザー制御にアプローチした。平成30年度は独自の装置でのセシウム原子の光誘導ドリフトの観測に成功した。 ドリフト観測装置の形態についての試行錯誤を昨年度から継続し、レーザー径よりも充分に大きな径を持つガラス管をレーザー径と同程度の貫通穴で3つのゾーンに分割する設計を採用した。レーザーとしてはDFBレーザーと外部共振器レーザーを一つずつ利用し、それぞれの波長を別の遷移に共鳴させた。金属セシウムを用い、レーザー誘起蛍光を赤外線ビューワーで観測することによって、セシウム原子が希ガス中で特定の方向にドリフトすることを確認した。レーザー波長の調整によってドリフト方向は左右に極めて急峻に切り替わることがわかった。この急峻な方向の切り替わりは光誘導ドリフトによって実装される同位体分離の効率の高さを示唆している。 並行して飽和吸収分光による速度変化衝突計測法の開発、セシウム原子の空間分布観測のための青色半導体レーザーの開発、変調移行分光を利用した全光学的セシウム同位体計測のための予備実験等を行った。それぞれの要素技術開発にはある程度成功しているが、光誘導ドリフト実験に組み込むためにはさらなる理論的・技術的な検討が必要となっている。 今後はまず光誘導ドリフト速度の定量計測技術を確立した上で、主にドリフト速度最適化のための系統的な条件探索を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は本研究の中心となる実験装置の開発に成功し、実験結果を得るための基本的なスキームの確立に成功した。また、二本のレーザーを波長調整して使用することによってドリフト速度が大幅に向上する結果が得られたことや、ドリフト方向が急峻に切り替わる結果などは当初の懸念を良い方向に覆す結果であった。これに伴って事前の理論計算のモデルとしての不備が明らかになったり、必要だと思われていた波長安定化やレーザー線幅の大幅な広帯域化がそれほど重要ではないことなどが明らかになるなどし、基本方針にもいくつかの修正が行われた。 この基本方針の変更はドリフト観測装置の仕様の違いに起因するものが多い。既往の研究における光誘導ドリフトの観測実験がレーザー径と同程度の径のガラス管内で行われることが前提となっているのに対し、本研究ではレーザー径の10倍程度の管を用いているため、モデル化の概念や必要な物理が異なっている。しかしながらドリフトの観測が可能になった現段階では仕様の違いによって生まれた困難は既に解消しており、むしろ新たな学理創出の基盤が整いつつある。 事前検討との違いはあるが、同位体分離実用化に向けてはむしろ肯定的な結果が得られており、当初の計画以上に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
光誘導ドリフトの目視観測には成功したが、定量的な速度計測等は未だ不十分である。まずレーザー誘起蛍光のイメージングによってドリフト速度を定量化する手法を確立する。計測手法として定常状態の発光分布を拡散の数値シミュレーションと比較する手法、および、高速度ラインカメラによってドリフト発生の瞬間を時間分解で観測する二つの手法でアプローチする。セシウム原子の空間分布を可視化する手法として、青色半導体レーザーによる上準位への励起の補助的な利用を検討する。このために自作の単一波長外部共振器青色半導体レーザーの改良と高出力化を進める。 上記の速度計測技術を確立し、ドリフト速度の駆動に関する系統的な計測を行う。レーザー波長、線幅、強度の変化に対するドリフト速度の変化を計測する。またガス種、ガス圧を変化させて同位体分離のための最適条件を探る。 また、セシウム原子蒸気源の改良も行う。現在は金属セシウムをドリフト観測実験の蒸気源として利用しているが、化学的に安定な塩とカルシウムを熱する手法によるセシウム蒸気発生法のシステムへの組み込みを検討する。 並行して、これまでの理論的検討・計測手法開発についても実験結果を踏まえて再構成する。具体的にはセシウム類似原子としてのルビジウム原子に関する理論的検討、飽和吸収分光による速度変化衝突の計測と計算知能によるパラメータ導出、変調移行分光による全光学的同位体計測法の開発、量子ウォークモデルに基づいた光共振器の開発などについて、実験で得られた知見に基づいた手法改良、データからの考察などを行う。
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