2017 Fiscal Year Annual Research Report
Study for the mechanism of epithelial plasticity induced by the shift of mitotic spindle orientation
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17H05004
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
中嶋 悠一朗 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (90782152)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 細胞分化 / 上皮間葉転換 / 細胞極性 / 組織恒常性 / 細胞分裂方向 |
Outline of Annual Research Achievements |
上皮間葉転換(EMT)をはじめとする上皮可塑性は、胚発生や創傷治癒に必須の生理的な現象であるが、成熟した上皮で起こる場合、がんの転移をはじめとした病因になることが示唆されている。本研究では、申請者が見出したショウジョウバエ上皮における「細胞分裂方向のシフトによって誘導されるEMT」をモデルとして(1) 分子・細胞レベルの特性、(2)EMT誘導に関わる因子の同定と機能、そして(3)EMTの脱分化や腫瘍悪性化への影響までを明らかにすることを目指す。本年度は、細胞分裂方向シフトによってEMTが誘導されるまでの細胞ダイナミクスおよび遺伝子発現変化の解明に取り組んだ。 分裂方向の変化で誘導されるEMTは、上皮細胞の基底方向への脱落に始まり、間葉遺伝子の発現へと続く。ショウジョウバエ翅原基において分裂方向の異常を誘導した細胞の脱落過程を詳細に観察したところ、脱落する基底側の娘細胞には極性タンパク質やジャンクションタンパク質が分配されず、上皮性を喪失している可能性が示唆された。またライブイメージング観察から、アピカル収縮とは異なるプロセスで脱落する様子も示唆された。 上皮から脱落する細胞は、Matrix Metalloproteinase 1 (Mmp1)の発現を示す間葉様の細胞となることから、Mmp1のレポーター系統Mmp1-GFPでの観察によって、EMTのタイムコースをモニターした。さらに、Mmp1-GFPの発現レベルに基づいた間葉様細胞群と、正常な上皮細胞、それぞれの遺伝子発現プロファイルをRNA-seqにより取得して、バイオインフォマティクス解析した。その結果、Mmp1-GFPの発現レベルに基づいた細胞群で発現上昇および発現減少した遺伝子を観察することに成功した。今後は顕著な発現変化を示した遺伝子に着目して遺伝学的な解析を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の計画では、細胞分裂方向の変化が誘導するEMTにおける細胞および分子特性を、イメージングとトランスクリプトームを組み合わせた解析を行うことで詳細に記述し、以降の研究計画の基礎を確立することを目指した。 細胞特性に関しては、免疫組織化学とライブイメージング観察を組み合わせることで、EMT開始のプロセスにおいては、分裂方向の変化が上皮極性や細胞接着の喪失に先行することが確認できた。具体的にはジャンクションマーカーを用いた免疫染色やライブイメージング観察から、分裂方向の異常を経て細胞脱落する際に特徴的な細胞挙動を検出することに成功した。またMmp1-GFPの発現レベルは基底側に脱落した間葉様細胞で最も発現が高く、上皮中の細胞では弱から中程度の発現であったことから、EMTのタイムコースを同定できたと考えている。観察から明らかとなったMmp1-GFPの発現レベルを参照して、フローサイトメトリーによって細胞を選別して単離することに成功した。単離したMmp1-GFPの発現レベルに基づいた間葉様細胞群の遺伝子発現をRNAseq解析するところまで行った。RNAseqの結果は、EMTのタイムコースに応じた段階的な遺伝子発現の変化を反映している可能性があり、今後のバイオインフォマティクス解析で詳細を明らかにできると期待している。 以上の結果は、細胞分裂方向の変化が誘導するEMTにおける細胞および分子特性の詳細を明らかにするという、今年度の計画を十分達成しているものであると考えられるため、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
ショウジョウバエ翅原基においてはEMT転写因子の異所的発現によって、細胞分裂方向の変化を伴うEMT効果がみられた。この結果にもとづき、増殖性の上皮組織においては分裂方向のシフトがEMTの最初期のイベントとして、普遍的に起こっているという仮説を立てた。そこでEMT転写因子の発現によって、分裂方向の変化や細胞脱落、間葉様の表現型を含むEMT効果が同様に観察されるかどうかをイメージング解析する。またEMT転写因子で誘導されるEMTにおいて細胞をソーティングしてRNA-seqを行い、遺伝子発現プロファイルを取得する。細胞分裂方向の変化、そしてEMT転写因子の発現という、異なる遺伝子操作で誘導されたEMTに共通して変化がみられる遺伝子群をバイオインフォマティクス解析により抽出することで、分裂方向シフトで誘導されるEMTに共通した遺伝子発現変化が明らかとなると考えている。 またRNAseq解析から得られた、EMTに特徴的な発現変化を示す遺伝子を候補因子として、それらの発現を系統ストックセンターにあるRNAi系統や強制発現系統を用いて操作することで、EMT表現型に関わる因子を遺伝学的に同定する。翅原基においてEMTを誘導すると、幼虫個体が蛹期までに致死になることを確認していることから、この表現型がレスキューされるかどうかを指標に1次スクリーニングを行い、翅原基の形態やEMTのバイオマーカーを免疫染色で調べることで2次スクリーニングとする予定である。
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Research Products
(13 results)