2018 Fiscal Year Annual Research Report
RNAウイルスの複製ファクトリー機能を制御する脂質の解明
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17H05070
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Institute of Medical Science |
Principal Investigator |
山根 大典 公益財団法人東京都医学総合研究所, ゲノム医科学研究分野, 主席研究員 (60782761)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | RNAウイルス / 脂質 / 複製複合体 / 小胞体膜 / 宿主因子 |
Outline of Annual Research Achievements |
プラス一本鎖RNA ウイルスは、感染細胞内において小胞体膜の構造変化を誘導し、同時に脂質代謝を制御することで、ゲノム複製の場となる特殊な小胞膜構造である複製ファクトリーを形成する、その小胞膜を構成し機能的役割を担う脂質成分については多くが未解明である。研究代表者はこれまでに、ヒトに病原性を持つピコルナウイルス・フラビウイルス・C 型肝炎ウイルスを含む病原RNAウイルスのゲノム複製が、異なる生化学的性状を持つ脂質によって制御されていることを見出したことから、本研究ではウイルス複製制御に重要な役割を担う脂質種の詳細を明らかにすることを目的としている。 平成30年度は、マイクロアレイ解析を用いてウイルス感染細胞における宿主遺伝子の変動を解析し、前年度に得られた包括的リピドミクス解析の結果を組合わせることにより、ウイルスによる転写依存的および非依存的な脂質代謝制御機構が存在することを明らかにした。また、ウイルス複製を抑制する宿主因子の解析を通じて、ピコルナウイルスであるA型肝炎ウイルスのゲノム複製がPLAAT4のもつホスホリパーゼ活性依存的に強力に抑制されることを見出した。メカニズムを追究した結果、PLAAT4による抗ウイルス作用はmTOR機能の阻害を介していることを明らかにし、報告した(Yamane et al., 2019 Nat Microbiol. In press)。引き続き、プラス鎖RNAウイルス感染細胞において量的および質的に変化することが認められたグリセロリン脂質の代謝および修飾に関与する宿主因子に焦点を当てる他、ウイルス複製に重要なスフィンゴ脂質やメバロン酸代謝経路を含めた包括的な視点から、複製ファクトリーにおけるこれらの脂質の構造的、機能的役割の解析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度行ったマイクロアレイを用いた遺伝子発現解析により、ウイルスは転写依存的および非依存的な制御の両方を介して感染細胞内における脂質代謝を調節していることが示唆された。また感染細胞におけるゲノムワイドな遺伝子発現プロファイルを得られたことで感染細胞において活発に機能している脂質代謝経路の全体像を把握することができた。既に得られている膨大なリピドミクス解析結果について詳細に精査したところ、複数のグリセロリン脂質については量的な変動のみならず、脂肪酸エステルの質的な変化がウイルス感染により誘導されていることが判明した。このことから、複製ファクトリーの構成成分である特定の脂質の脂肪酸修飾についてもウイルスによって制御されている可能性が示唆された。さらに、コレステロール合成に関与するメバロン酸代謝経路についても遺伝子ノックダウンや阻害剤を用いた解析により、これまで重要と考えられていたコレステロールのみならず、中間代謝産物がRNAウイルス複製に重要な機能的役割を果たしていることが強く示唆された。このように、グリセロリン脂質・スフィンゴ脂質・メバロン酸代謝経路を含む多岐に渡る脂質種についての包括的解析を通じて、ウイルス複製を制御する脂質種の解明が進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究により、細胞内に存在する脂質代謝酵素遺伝子の発現プロファイルおよびウイルス感染による発現変動を把握できたことに加え、グリセロリン脂質・スフィンゴ脂質・メバロン酸代謝産物を含めた包括的なデータを得ることができた。これらの結果を組み合せて解釈することにより、脂質の量的および質的な変化に関与する可能性のある遺伝子を割り出し、さらに同様の脂質代謝機能を持つ遺伝子アイソフォームの中から標的とする遺伝子を同定することが可能となったことから、責任遺伝子の同定を現在進めている。ウイルス感染に伴う脂質の質的変化は脂肪酸エステル組成の機能的重要性を示唆するものであることから、脂肪酸の過酸化や不飽和化等の過程に関与する代謝経路についても注目して研究を進める。RNAウイルス複製に影響を与える脂質代謝酵素遺伝子を同定することで、細胞内膜に存在する脂質およびそれらを修飾する飽和・不飽和脂肪酸エステルのウイルスレプリカーゼ機能制御における詳細な制御モデルを構築することが可能となるのみならず、新たな抗ウイルス薬の標的分子を見出すことに直結する。特定の脂質の量的、質的変化はピコルナ・ヘパシ・フラビウイルス感染細胞のいずれにおいても普遍的にみられることから、この研究を通じて広範なウイルスに普遍的に効果のある薬剤を見出すことが期待される。見出された化合物については動物感染モデルを用いた試験へと進み、in vivoにおける抗ウイルス効果および安全性の評価を進める予定である。
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Research Products
(7 results)