2018 Fiscal Year Annual Research Report
ヒト初期胚発生型リプログラミングによるがん化しない安定したiPS細胞の樹立
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17H05100
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
山田 満稔 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (40383864)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ゲノム安定性 / ES細胞 / iPS細胞 / 受精卵 |
Outline of Annual Research Achievements |
受精卵から樹立される胚性幹細胞(ESCs)および体細胞から樹立される人工多能性幹細胞(iPSCs)は、いずれも未分化能性および多分化能性を有し、細胞治療や疾患モデルに有用と期待されている。しかしながら成人の皮膚の体細胞から樹立したiPSCsはゲノム不安定性に起因するがん化の問題が指摘されている。着床前期胚発生は、受精、胚性ゲノム活性化(Zygotic Genome Activation: ZGA)、分化全能性の獲得の過程を含み、ZGA型リプログラミングはゲノム安定性の高いiPSCsの樹立につながると期待される。 そこでゲノム安定性に寄与することで知られるZscanファミリー遺伝子のなかから、着床前期特異的に発現するZfp371を抽出した。Zfp371 KO-胚盤胞から樹立したKO-ESCsのテラトーマ形成試験の結果、悪性胚細胞性腫瘍を形成した。核型解析の結果、KO-ESCsとKO-体細胞では高頻度にchromosome gap、break、ロバートソン転座、重複および欠失などの多様な染色体構造異常を示した。免疫沈降法の結果、ESCsにおいてZfp371はヒストンH1タンパク(H1.1、H1.2、H1.4)と結合し、体細胞におけるこれら遺伝子の過剰発現系でもお互いが結合することを確認した。DNA安定性への関与を検討するために放射線照射をKO-ESCsに行った結果、DNAストレスマーカーγH2AXの発現頻度が野生型と比較して有意に上昇した一方、KO-ESCsにZfp371を過剰発現するとγH2AXの発現頻度は減少した。こうした結果は、Zfp371がヒストンH1と結合することによりヌクレオソーム構造の安定化に寄与するとともに、体細胞分裂過程におけるDNA修復応答に関わる二つの機序を介して、ESCsにおけるゲノム安定性に寄与すると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究の目的」内において、初期胚発生と多能性獲得におけるZGAの分子生物学的機構の一端を明らかにすることを目的とした。 本研究ではマウス体細胞からのリプログラミングにより、若齢から1年程度の加齢モデルまでのESCs、iPSCsの樹立ができている。これら複数の細胞株の特性解析として行っている未分化能性、多分化能性評価では明らかな違いを見出していないものの、ゲノム安定性試験ではゲノム修復応答の変化がみられた。現在この要因を検索するため、グローバルな転写の状態をRNA-seq解析により検討している。 さらにゲノム安定性に関わるZGA遺伝子として、Zscan familyに属するZfp371がESCsにおいて寄与することを詳細に明らかにした。Zfp371は幹細胞樹立過程においても発現しており、従来の山中4因子にかわる、あるいは補完するあらたなリプログラミングファクターとして有用な可能性がある。 これらの点を考慮し、ゲノム安定性の高いヒトiPS細胞の樹立のためのモデルとしての細胞ソースと実験系が確立、およびあらたなリプログラミングファクターの候補を同定できたことから、研究計画はおおむね順調に進展していると考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はリプログラミング過程におけるZGA遺伝子群の分化多能性獲得およびゲノム安定性への寄与を解析するため、マウスの加齢モデル(7週齢から24月齢)までのESCs、iPSCsを複数樹立する。さらにこれら細胞株のリプログラミング過程における転写の状態を継時的に観察し、ZGA遺伝子の寄与を検討する。 これまで加齢モデルから樹立されたヒトiPSCsではDNA損傷応答が損なわれていること、ミトコンドリア機能が低下することが報告されていることから、マウスの加齢モデルによりより詳細に、これら機能低下の原因を検討する。 そこで前年度に樹立した若齢由来3株、加齢由来個体から樹立した3株のESCs、iPSCsに加えて、12ヶ月齢の個体からESCsおよびiPSCsを、24ヶ月齢の個体からiPSCsを樹立する。未分化マーカー遺伝子Oct4、Sox2、Klf4、Nanog、cMyc、Tertなどについて定量的リアルタイム解析を行う。多分化能性の検討のためin vitroに胚様体作成を、in vivoには免疫不全マウスに細胞を注入してteratoma形成能試験を行い、得られたサンプルをヘマトキシリンエオジン染色に供す。放射線照射試験を行い、加齢モデルにおけるゲノム安定性を評価する。Seahorse analyzerを用いて、加齢モデルにおけるミトコンドリア機能を評価する。ここで差が観察されるようであれば、Zfp371遺伝子をリプログラミング過程において山中4因子と一緒に発現させることで、加齢モデルのDNA損傷応答が改善されるかどうか検討を行う。
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Research Products
(4 results)