2018 Fiscal Year Annual Research Report
肺炎球菌の進化過程で保存された病原因子の検索とワクチン抗原の開発
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17H05103
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山口 雅也 大阪大学, 歯学研究科, 助教 (00714536)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 肺炎球菌 / 細菌 / 感染症 / 分子進化 / ワクチン |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、薬剤耐性菌による感染症が国際社会の脅威となっており、新たな抗菌薬の開発とともに、革新的な解析技術が求められている。本研究では、耐性化が懸念されている病原細菌の一つである肺炎球菌の菌体表層タンパク質群について、進化上の選択圧から病原因子の重要性を推定し、解析を行った。 全ゲノムが解読された肺炎球菌28株について、細胞壁に局在すると予測される30種類のタンパク質をコードする遺伝子群を選出し、分子系統樹をそれぞれ作成した。得られた遺伝子配列群と系統樹から、ベイズ推定に基づく分子進化解析を行った。その結果、コリン結合タンパク質をコードする遺伝子群においては、cbpJとlytAが、細胞壁架橋モチーフを持つタンパク質をコードする遺伝子群では、nanAとbgaAが、10%以上のコドンが負の選択下にあることが示された。これらの遺伝子のうち、cbpJがコードする分子の機能や病原性に果たす役割が不明であり、病原性に関わる既知の機能ドメインも存在しなかった。そこで、cbpJ遺伝子欠失株を作製し、マウス経鼻感染モデルにて病原性に果たす役割を検討した。その結果、野生株感染群と比較して、cbpJ欠失株感染群の死亡率が有意に低かった。また、ヒト好中球を用いた殺菌試験において、野生株と比較して、cbpJ欠失株の生存率が有意に低下した。一方で、マウス経静脈感染モデルでは野生株とcbpJ欠失株の病原性に差は認められなかった。これらの結果から、CbpJが肺感染時の病原因子として働くことが示唆された。すなわち、ゲノム情報の比較から強く進化が制限されている分子を算出することで、病原因子を推測できることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
分子進化解析による進化の選択圧の評価が、当初の予想以上に病原因子の探索に有効であることが示唆された。計画当初は、少数の因子について分子生物学的な解析に移る予定であったが、複数の新規病原因子の存在が示唆されたため、それらについて解析し、分子進化解析の予測を裏付ける結果が得られた。 また、「先進ゲノム支援」の支援課題に採択され、これまで多大な時間が必要であった分子進化解析について、スーパーコンピュータシステムの利用と言語解析プログラムを利用することによって解析時間を大幅に短縮させる糸口を得た。 以上のことから、当初の計画以上に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的に、当初の研究計画に沿って実験を行う。一方で、当初の計画で外部企業に解析の委託を行うものについて、科研費またはAMEDによる研究支援プログラムが存在するもの(遺伝子解析など)については昨年度に引き続いて積極的な応募を行い、より合理的かつ質の高い計画の遂行を目指す。
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