2020 Fiscal Year Annual Research Report
Realization of nano-dynamics imaging of protein molecules in extremely soft membrane environments
Project/Area Number |
17H06121
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
安藤 敏夫 金沢大学, ナノ生命科学研究所, 特任教授 (50184320)
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Project Period (FY) |
2017-05-31 – 2022-03-31
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Keywords | 膜蛋白質 / 高速AFM / 走査型イオン伝導顕微鏡 / バイオイメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
高速AFMはすでに様々な蛋白質系の動的プロセスの観察に広く利用されている。しかしそれでもなお、探針―試料間の接触力が大きすぎるなどが原因で観察できない対象が未だ多く存在する。そこで、本研究では以下の課題について取り組んできた。①膜表裏の間に非対称な環境を形成できるアッセイ系の実現、②非接触イメージング可能な走査型イオン伝導顕微鏡(SICM)の高速化と高解像化、及び、その両立、③高速AFM における探針-試料間接触力の更なる低減化 それぞれの課題について以下の進展が得られた。①については、宙に張った脂質膜を調製する必要があるが、蛋白質の二次元結晶を利用する方法では膜蛋白質に接しないほど深い孔を形成することが難しいという問題があった。そこで、微細孔を有する窒化シリコン膜、ポーラスアルミナ、及び、ナノピペットの利用を検討し、ポーラスアルミナが有望であることを見出した。②については、レーザープラーで先端孔径が5nm以下のナノピペットをルーチンで作製できる条件を見出した。また、液充填法、及び、変形させずに電顕でピペット形状を観察する手法を開発した。結果、SICMの高解像化に成功した。すでに高速化にも成功しているが、高速性と高解像性能を両立する課題が残されている。孔径を小さくするとインピーダンスが増大し、イオン電流計測の応答速度が遅くなる。そこで、孔径に依存しない応答速度を有する拡散電位の利用を検討し、拡散電位でもイメージング可能であることを見出した。しかし、拡散電位の応答速度も予想に反し遅いことが判明した。おそらく、負に帯電したピペット壁での電荷の再配置に時間がかかるのが原因と考えられる。この問題解決に専念する新たな人材を得、また、専用の高速SICM装置一式を作製した。③についても大きな前進があった。探針―試料間接触力を大幅に低減し、それより、従来よりも2-3倍の高速性能を達成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していた手法がうまく行かない場合でも、第二、第三の手法を検討し、目標に近づくことができている。例えば、CNT を利用したSICM 用ピペットの作成は成功確率が低いという問題があり未だ日常的に利用できる段階にないが、レーザープラーのパラメータを種々検討することにより、壁厚が3-6nm と薄く直径5nm 以下の開口を有するナノピペットをルーチンで作成できるようになった。膜表裏の間に非対称環境を持たせることができるアッセイ系の開発でも、当初予定していた方法に加え、別の複数の手法を検討した結果、それぞれ特徴のあるアッセイ系をある程度開発できている。高速SCIM の開発も順調に進展し、解像性能を落とさずに世界最速の性能を実現した。すでに高速SICMのバイオ応用研究にも着手し、他の手法では困難な解析が可能であることを実証している。比較的容易な手法(OTIモード)により、高速AFM における探針・試料間接触力の更なる低減化にも成功し、更なる飛躍への大きな一歩となった。OTIモードは当研究所の高速AFMユーザー全員に利用され始めており、遅くとも2022年内には市販の高速AFMにも搭載されることが決まっている。
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Strategy for Future Research Activity |
① 膜蛋白質を埋め込んだ宙に張った脂質膜の作製法の開発はあと一歩である。扱いが容易なポーラスアルミナにリポソームを載せたが破裂しにくく、それ故、二重層膜を張ることが難しい。ポーラスアルミナの表面を更に親水化処理することにより、リポソームを破裂させることができると見込んでいる。これが成功すれば、種々のABCトランスポータやトランスロコンの機能ダイナミクスを高速AFM観察する。 ② SICMの高解像性能の達成と、その高速性能との両立には、二つの課題が残されている。孔径が約2nmのナノピペットの作製法は確立したが、孔を囲むガラス壁の厚さは5nm程度の場合が多く、未だ厚い。孔径を維持したままガラス壁を薄くするために、ピペット先端のKOH処理を試みたところ、有望であることが確認された。この方法を系統的に調べる。高速性能と高解像性能の両立については、ガラス壁の電荷を中和するとともに、拡散電位が大きくなる電解質を充填することにより実現できると考えている。一方、すでに開発した高速SICMを実際の応用研究に利用することもすでに開始している。具体的には、ナノピペット開口部で生ずる電気浸透流を利用して、細胞膜を変形させることにより膜の柔らかさをマッピングすることを進めている。悪性度の異なるがん細胞の膜の柔らかさの測定を進めている。また、試料表面の電荷分布の測定も行っており、生きた細胞の表面の電荷が細胞周期や栄養状態に応じて変化してゆく様子を観察できそうである。これらの応用研究を進めつつ、分離した細胞内オルガネラの表面やデルーフ細胞の内部の観察も行い、応用研究の幅を広げていく。 ③ 高速AFMの高速性能と低侵襲性能の向上をほぼソフトエアの改変だけで実現したが、スキャナー、振幅計測器、カンチレバーといったハードウェアの更なる改良を進め、近い将来毎秒100秒で比較的脆いタンパク質系を観察できるようにする。
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Research Products
(29 results)