2018 Fiscal Year Annual Research Report
高分解能原子間力顕微鏡・分光法による生体分子間認識・相互作用力の直接可視化
Project/Area Number |
17H06122
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山田 啓文 京都大学, 工学研究科, 教授 (40283626)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小林 圭 京都大学, 工学研究科, 准教授 (40335211)
平田 芳樹 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (10357858)
岩田 太 静岡大学, 電子工学研究所, 教授 (30262794)
|
Project Period (FY) |
2017-05-31 – 2022-03-31
|
Keywords | ナノ計測 / 走査プローブ顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、主に下記2項目の研究テーマに注力して研究を推進した。 (1) 高度フォースマップ法による生体分子周囲の局所電荷密度計測 特異結合などの生体分子の機能発現素過程には、生体分子の機能活性部位周辺の電荷分布が大きく影響することから、生体分子周囲の局所電荷分布計測が強く求められている。一方、溶液中の帯電した領域上に形成される電気二重層は、AFMフォースカーブ計測によって、局所DLVO力/電気二重層力として検出可能である。実際、これまでの研究により、3次元フォースマップ法を用いることで局所DLVO力/電気二重層力の3次元分布計測が可能であることが示されている。しかしながら、生体分子の極近傍に存在する水和構造と電気二重層(界面イオン分布)との関係については不明な点が多く、また、個々の水分子の離散性を反映する水和構造と、連続体と捉えられる電荷分布を起源とする電気二重層力の間には概念的差異があり、統一的な理解が求められている。本研究では、生体分子周囲のより高精度な局所電荷密度計測の確立を目指し、FM-AFMベースの高度フォースマップ法によって水和構造力と電気二重層力の分離検出が可能であることを、表面構造と電荷分布が既知のテスト試料を用いて検証した。また、実際に生体試料を用いて電荷分布計測を行った。 (2) 生体分子間認識・相互作用の可視化 局所領域における分子認識・相互作用力のフォースマップ法の有効性の検証するために、基板の特定領域にのみ特異結合分子が存在する、非一様分布を有する試料を新たに作製し、本フォースマップ法によって特異結合力の空間分布を測定した。非一様試料としては、脂質膜の島状ドメイン形成、あるいは相分離脂質膜を利用して作製されたstreptavidin2次元結晶膜を使用した。また、複製フォーク形成時に必要となるDNA-タンパク質複合体を作製するとともにその可視化を進めた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、以下の2つのサブテーマの研究を中心として、新たな生体分子機能イメージングを確立するための具体的な研究を推進した。 サブテーマ「(1) 高度フォースマップ法による生体分子周囲の局所電荷密度計測」においては、FM-AFMベースの高度フォースマップ法による水和構造力と電気二重層力の分離検出が可能であることを実証した。このためのテスト試料として、表面構造と電荷分布が既知の結晶試料、層状ケイ酸塩結晶(クリノクロアと呼ばれる)を用いた。この結晶は、正電荷をもつ酸素八面体層と、負電荷をもつケイ酸塩四面体層が交互に積層した特徴的な構造をもつ。これら異なる2つの層が結晶へき開面として露出することから、帯電した表面の水和構造と電気二重層を分子レベルで探る上で最適な試料となっている。実験で得られた3次元フォースマップは、四面体層・八面体層の両方で、表面に平行な層状の明暗コントラストを示し、固液界面に複数の層状水和殻が存在することを示した。一方、八面体層上ではやや暗い背景力(電気二重層引力)が測定され、八面体層が正帯電であることが示された。逆に、四面体層上では背景力は明るく、電気二重層斥力が観測され、この領域が負の電荷をもつことが確認された。また、実験結果とDLVO理論との対応によって、表面上での局所電荷密度を定量的に求めることができた。さらに、生体試料への応用として、コンフォメーションの異なる2種類のDNA(B-DNA、Z-DNA)上の局所表面電荷密度を求めることにも成功した。また、サブテーマ「(2) 生体分子間認識・相互作用の可視化」では、streptavidin (SA) に特異的に結合するbiotin修飾探針を用い、脂質膜上に局所的に分布するSAドメイン上で、分子認識力および散逸力の空間分布を、動的および静的AFMに基づくフォースマップ法によって得ることに成功した。
|
Strategy for Future Research Activity |
生体分子の機能発現は、多くの場合、主にその機能と関連するタンパク質分子などの微視的構造/コンフォメーション変化によって誘起される。こうした構造等の変化は生体におけるナノ力学情報伝達の本質であり、従って、生体分子のナノ力学応答の直接計測はそのメカニズム解明に向けて極めて有効な手法となる。また、タンパク質分子そのものの微視的弾性についても、これら分子によって形作られる細胞弾性や組織弾性と直接的につながるため、細胞/組織疾患との関連性の点からも興味深い。一方、ナノ力学物性計測については、これまでの研究により、AFMによるソフトマター粘弾性計測として、分子レベル力学物性の測定は実現されているものの、溶液下における単一生体分子のナノ力学応答についての研究は十分進展していなかった。今後の研究では、高度フォースマップ法を用いることで、タンパク質分子内のドメイン間のナノ力学応答の違いを測定し、生体機能との関連を明らかにする。特に、タンパク質内のヘリックス、シート、ループ構造などの二次構造の違いと、局所弾性および局所弾性エネルギー損失との関連について解析する。また、生体分子周囲の水和殻がタンパク質構造の柔軟性に影響することが示唆されており、分子周囲水和構造と生体分子弾性との関連性という観点でも研究を進める。 これまで、真核生物DNAの複製初期過程に関わるDNA-タンパク質複合体の複合過程の研究を進めてきたが、今後の研究においても引き続き、複製フォーク形成過程の研究を進めるとともに、DNA複製プロセスの進行を緩和するあるいは停止する特定の領域(RFB)についての研究を進める。特に、RFB活性化を担うタンパク質FOB1とDNAの複合構造の可視化を目指す。
|
Research Products
(44 results)