2020 Fiscal Year Annual Research Report
Visualizing ultrafast dynamics of molecular structure with femtosecond X-ray solution scattering
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17H06141
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
足立 伸一 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, その他部局, 理事 (60260220)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
野澤 俊介 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 准教授 (20415053)
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Project Period (FY) |
2017-05-31 – 2022-03-31
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Keywords | 放射光 / X線 / 時間分解 / 超高速ダイナミクス / X線自由電子レーザー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、X線自由電子レーザーの最大の特長であるX線パルス幅数フェムト秒の特性を最大限に活かすために、アライバルタイミングモニターを活用して100 フェムト秒以下の時間分解能の時間分解X線計測を実現することを目指している。これにより、液相光化学反応の超高速初期過程におけるコヒーレントな分子構造・電子状態の変化を観測することを目的とする。さらに、この計測手法をより広範な光反応系に適用することにより、パルスX線光源を用いた超高速分子構造科学の分野創成と分野拡大を推進するべく、本研究に取り組んでいる。 2020年度は、これまでに国内のX線自由電子レーザー施設SACLAおよび韓国のPAL-XFELにおいて得られた、シアノ金錯体の結合形成に伴うコヒーレント振動を観測した実験結果を取りまとめた論文が、Nature誌の査読を経て、6月に掲載された(Kim et al., Nature, 582, 520 (2020))。本論文は、本研究課題で当初から目指していた目標を、シアノ金錯体の光誘起結合形成反応という具体的な実験系で実現したという意味で、極めてマイルストーン的な研究成果である。研究代表者が知る限り、溶液光化学反応の1ピコ秒以下の初期過程における分子構造の変化をX線散乱計測により直接観測した研究は国内外に例がない。光化学反応の理論計算において、励起状態のポテンシャルエネルギー曲面上を分子構造が変化しながらエネルギー極少の分子構造に至る図は論文等でよく見かけるが、溶液光化学反応において実験的にその過程を時間を追って追跡したのは、この研究例が最初ではないかと思われる。そういう意味で、本研究の化学分野全般へのインパクトは極めて高いと考えている。 また同時に、このような時間分解X線計測の応用展開を目指した検討を、他の試料や計測法についても積極的に進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、国内のX線自由電子レーザー施設SACLAのみならず、韓国のX線自由電子レーザー施設PAL-XFEL(韓国・浦項加速器施設)においても時間分解X線溶液散乱実験を行い、2つの施設の実験データについて統一的な解釈を行うことに時間を要したが、最終的に結果を取りまとめてNature誌に論文掲載に至った。この論文は、シアノ金錯体の光誘起結合形成反応という具体的な実験系を用いて本研究課題の目標を達成したという意味で、極めてマイルストーン的な研究成果である。溶液光化学反応において実験的に約1ピコ秒の光励起初期過程をフェムト秒オーダーで追跡したのは、この研究例が最初ではないかと思われる。そういう意味で、本研究の化学分野全般へのインパクトは極めて高いと考えている。これを踏まえて、当初の計画通り概ね順調に進展していると自己評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
当初目的としていたアライバルタイミングモニターを活用したフェムト秒時間分解能の時間分解X線計測については、予定通り実現した。この測定手法により、液相光化学反応の超高速初期過程におけるコヒーレントな分子構造・電子状態の変化を観測することに成功したことから、今後はこの計測手法をさらに高度化するとともに、より広範な光反応系に適用し、パルスX線光源を用いた超高速分子構造科学の研究分野をさらに拡大したい。 X線溶液散乱についてはSACLA施設における検出器の大面積化と高エネルギー(18keV)X線の利用のメリットを最大限に活かし、世界の他施設の追随を許さない高分解能X線散乱データの計測と解析を進める。また、並行してX線吸収分光法にフェムト秒時間分解X線計測法を適用し、X線散乱法と相補的な情報の取得を目指す。 一方で、液相の光化学反応のみに留まらず、固相(薄膜)の強相関電子系物質へのフェムト秒時間分解X線回折法の適用についても今後検討を進める。
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Research Products
(34 results)