2019 Fiscal Year Annual Research Report
大脳メタ記憶神経回路の解明:光遺伝学による内省の因果的制御
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17H06161
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
宮下 保司 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, チームリーダー (40114673)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
内山 安男 順天堂大学, 医学部, 特任教授 (10049091)
小西 清貴 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90323609)
松崎 政紀 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, チームリーダー (50353438)
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Project Period (FY) |
2017-05-31 – 2022-03-31
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Keywords | 認知神経科学 / 磁気共鳴機能画像法 / 霊長類 / メタ記憶 / 光遺伝学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題において、サルに遂行可能なメタ記憶課題として、『確信度判定課題』すなわち「自分の記憶がどの程度正しいか」に関する自己の確信の程度を問うメタ認知課題を開発し、遠隔事象に対する記憶および近時事象に対する記憶に関する内省的確信を形成するメタ記憶中枢がそれぞれ大脳前頭葉9野(PSPD)および6野(aSEF)に存在することを発見した(Miyamoto et al., Science 2017)。更に、自分自身が経験したことのない出来事を対象としてメタ認知評価を行う心のはたらき(メタ記憶機能の中でも特に高度な心的機能と考えられる)について、確信度判断時に大脳皮質前頭葉のうちでも最前方に位置する前頭極(10 野, fronto-polar cortex)が活性化し因果的に機能することとを発見した(Miyamoto et al., Neuron 2018)。これら大脳前頭葉の複数領域は、記憶の種類毎に特異的に機能するメタ記憶読み出し領域であるので、これらから統一的な確信度判断を導くプロセスのfMRI解析を進めており、大脳後下頭頂葉(posterior inferior parietal lobule, pIPL)が読みだされたメタ記憶情報を統合してメタ判断を下す中心部位である、との予備的結果を得ている。また、これらのメタ記憶プロセスは大脳側頭葉内の記憶想起実行プロセスから入力を受けているが、この記憶想起実行プロセスが嗅周野と側頭連合野とのダイナミックな共同作業によって担われていることをサル大脳両領域からの微小電極同時記録によって示した(Takeda et al., Nature Commun, 2018)。これらの知見を総合して、大脳記憶想起システムのダイナミックスについての統合的仮説を提案した(Miyashita, Nature Rev. Neurosci., 2019)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究において重要な大脳メタ記憶システムの光遺伝学的抑制の為には、広範囲な脳領域へのレーザー光照射が必要であるが、光照射強度およびそれに伴う脳組織へのダメージを抑えるにはヘモグロビン等の脳内吸光分子の吸収スペクトラムと重ならない波長領域の利用が有効である。抑制性光遺伝学分子であるArchTの活性化波長帯域を考慮しつつ、照射の最適波長を調べた。本研究費繰越期間中の2020年に最終的取りまとめを行い、論文発表した(Setsuie et al., iScience 2020)。 記憶の種類毎に特異的に機能するメタ記憶読み出し領域である大脳前頭葉の複数領域を同定したので、これらから統一的な確信度判断を導くプロセスのfMRI解析を進めている。本年度の研究により、大脳後下頭頂葉(posterior inferior parietal lobule, pIPL)は、『確信度判定課題』において遠隔事象に対する記憶、近時事象に対する記憶、そして自分自身が経験したことのない出来事を対象としたメタ記憶に関する内省的確信を形成する、どのプロセスにおいても活性化するような各当該メタ記憶判断の共通領域であることを見出した。更に、pIPLは当該前頭葉各領域からメタ記憶情報を受けていることを statistical mediation analysis によって示した。そして当該前頭葉各領域のそれぞれをGABA agonist によって局所不活化するときの反応時間補償がpIPL活動によって担われていることも明らかにした。これらによって、pIPLが、読みだされたメタ記憶情報を統合してメタ判断を下す中心部位であるとの予備的結論を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度研究計画として、抑制的な光遺伝学的介入法においてヘモグロビン等の脳内吸光分子の吸収スペクトラムと重ならない波長領域の利用が有効であるとの仮説を、ArchTの活性化波長帯域を考慮しつつ、最適波長を調べることにより検証した。本研究費繰越期間中の2020年に最終的取りまとめを行い、論文発表した(Setsuie et al., iScience 2020)。 従来から単一神経細胞活動記録には微小電極電気生理法、大脳全体の神経活動記録にはfMRI法を用いて研究を進めてきた。上記『現在までの進捗状況』で述べたように、メタ記憶のプロセスは大脳前頭葉と頭頂葉の広範な領域(すなわち、fronto-polar cortex, PSPD, aSEF, pIPL)によって担われていることが明らかになった。できればこれら大脳領域で単一神経細胞活動を同時記録したい。その為に理研・松崎研究室との共同研究によってマーモセットを用いた光学計測プロジェクトを企画した。松崎研究室はマーモセット行動課題遂行中に2光子顕微鏡を用いて脳活動計測を行ってきた実績があり、理研・村山研究室と共同で広視野2光子顕微鏡開発を進めている。松崎博士を研究分担者とし共同実験室の整備を進めている。 上記『現在までの進捗状況』で述べた大脳後下頭頂葉(pIPL)のメタ記憶判断における役割を更に明らかにするために、pIPLからの出力信号がどこに送られるかの検索を進めている。それによって、記憶の種類毎に特異的に機能するメタ記憶読み出しが最終的なメタ記憶判断へと導かれるシステムの全貌が明らかになることが期待される。これらは基本的にマカクサルを被験者とした研究であるが、前頭葉10野fronto-polar cortexはヒトでもっとも発達した領域であるので、当研究室研究員の渡部喬光博士を中心としたヒトfMRI・TMS解析を進めている。
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