2019 Fiscal Year Annual Research Report
Generation of neural network repair medicine
Project/Area Number |
17H06178
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山下 俊英 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (10301269)
|
Project Period (FY) |
2017-05-31 – 2022-03-31
|
Keywords | 神経科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、生体システム全体の免疫機能を担うBリンパ球が神経回路の形成を促進することを見出した。具体的には、生後に髄膜および脳室に集積するB細胞がIgMを産生し、oligodendrocyte precursor cellsの増殖を高めることで、髄鞘化を促進し脳の神経回路の成長に寄与することを明らかにした。本知見は神経系から遠く離れて局在するリンパ球が神経回路の形成に寄与することを示した発見である。ミクログリアが神経回路の形成と修復に寄与する知見が複数得られた。一方でミクログリアが神経回路の異常形成を招くことで、視床痛の原因になりうることを明らかにした。さらにミクログリアが進行型多発性硬化症の病態の悪化に働くことを明らかにした。 臓器連関に関する新たな知見を得ることができた。脳脊髄炎病態下で血小板由来のTGF-beta1が血液脳関門を超えて病変部周囲に浸透し、髄鞘化を高めることを見いだした。 これまでは生体システムが神経回路に与える影響に注目してきたが、これとは逆方向の作用についても新たな知見が得られた。たとえば脳損傷モデルで障害を受けた神経細胞からLDLが漏出し、それが契機となって血管内皮細胞の増殖が促進されることを見いだした。 RGMが海馬の神経幹細胞の分裂を抑制することを示した。この知見は、RGMが脳高次機能を担う神経回路の再編にも関わる可能性を示唆するものである。 以上の発見によって、神経回路の修復過程には神経系以外の生体システムが重要な役割を演じているという新たなコンセプトを確立できた。なかでもBリンパ球や血小板などを含み、全身の多彩な臓器が神経回路の修復を制御するというエビデンスを得ることができたこと、生体システムと神経系の双方向性連関のメカニズムの一部を解明できたこと、また脳高次機能と生体システムの連関を見いだすことができたことが特筆すべき成果である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初は免疫系や脈管系が神経回路にどのような影響を与えているかを明らかにすることを目標としていたが、本研究期間において、さらに広範囲の生体システムが神経回路の修復に関わることを発見した。具体的には、Bリンパ球から産生されるIgMがOPCの増殖を促進することで、髄鞘化を高めることを明らかにし、脳傷害後に肝臓と膵臓から分泌されるFGF-21、血小板由来のTGF-beta1などが血液脳関門の破綻箇所より中枢神経内に浸透し、oligodendrocyte precursor cellsの増殖を促進し、再髄鞘化を高めることを解明した。さらに神経―生体システム連関が脳の高次機能や疼痛制御にも寄与することを示した。以上の知見は、当初の想定を超えた大規模な生体システムの貢献を示すものである。 また、血管系の関与について、複数の因子を同定し、これらの因子による神経回路修復機構を明らかにすることができた点は、当初の目標に向けて順調に研究が進んだものと自己評価する。一方で、障害を受けた神経細胞からLDLが漏出し、それが契機となって血管内皮細胞の増殖が促進されることを見いだした。これは神経細胞が脈管系に影響を及ぼすという知見であり、当初の予想を超えて、双方向性の制御が病態形成をもたらすという結果を得ることができた。 さらに、本研究成果を基盤として、治療法のない難治性疾患に対する創薬研究へと繋がっていった。具体的には、RGMによる神経幹細胞の分裂抑制作用を明らかにした。本知見を基盤として、RGMをターゲットとした抗体治療薬は、認知症などの高次脳機能の改善にも寄与する可能性を示した。医療におけるunmet needsに応える成果であり、この点で当初の目標以上の進展と考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
R2年度以降においては、研究項目「病態形成と回復期における生体の反応の機序の解明」を行うことを当初の予定としている。すなわち、生体システムがどのように各細胞の活性化の時空間的ダイナミクスを生み出すのかという課題に取り組むこととしている。各細胞群のシーケンシャルな活性化を統御するメカニズムを明らかにすることも目標としている。R1年度までに得られた研究成果を統合し、新たな生体システム制御の概念を構築することが到達目標である。当初の予定通りに、基本的な方針の変更はなく、本研究項目に着手し進めて行く予定である。
|
Research Products
(25 results)