2018 Fiscal Year Annual Research Report
全光学的手法による非接触・非侵襲な生体機能の電場制御技術の開発
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17H06228
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
廣理 英基 京都大学, 化学研究所, 准教授 (00512469)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
坂口 怜子 京都大学, 高等研究院, 特定助教 (80723197)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | 高強度テラヘルツ / 非線形分光 / ライブセルイメージング / 蛍光プローブ / 分化誘導 / 細胞機能制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではテラヘルツパルスの高強度化を追求するとともに、物性科学における分光計測の枠を超えて生物・化学分野への応用展開と、物質に対して能動的に効果を発揮する光技術を開発することを目的としている。昨年度までに、高強度テラヘルツパルスによる細胞機能の制御に関わり、細胞状態を非接触・非破壊的に精密計測する技術を確立した。生細胞内部・細胞深部におけるシグナル伝達の指標となりうる、温度や酸素濃度の定量的測定を実現する技術開発を推進した。改良型の温度センサータンパク質を用いて、ヒト由来細胞のミトコンドリアの局所温度と、エネルギー(ATP)の産生能に正の相関があることを明らかとした。本成果は、高強度テラヘルツによる細胞機能制御において生かされる技術と知見である。また、二光子顕微鏡を用いてIr錯体のリン光寿命を計測することによって腫瘍塊内部の酸素濃度を測定する技術も確立した。また、テラヘルツパルスの高強度化とイメージング技術の融合に関わる実験的研究を推進した。ここではテラヘルツパルスの高強度化をために、固体物質表面に金属アンテナを作製した。相変化材料に対して高強度テラヘルツパルスを照射し、金属アンテナで増強されることによりゼナートンネリングによるキャリア生成を誘起し、異方的な結晶化が誘起されることを開発した可視イメージング技術で観測した。これらの研究成果の一部は、すでに学会や論文において公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度の進捗状況は以下に示す2点である。計測制御システムを確立でき、生細胞への高強度テラヘルツパルスの照射実験を実施して形態変化を確認するまで至ったため、概ね順調に推進できているいえる。実際に、高強度テラヘルツパルスを生細胞へ照射し、テラヘルツが照射されている細胞を個別にリアルタイムで蛍光顕微計測できるシステムを完成させた。本開発ではインキュベーターを独自設計し、テラヘルツパルスを最も効率よく生細胞へ照射できる構造でありながら、±0.5℃精度の温調と湿度管理も可能とした。人工多能性幹細胞(iPS)細胞を用いた実験の結果、20時間以上に亘り正常な状態を維持できることが確認した。また、カルシウムインジケーターFluo 4-AMや温度センサータンパク質tsGFP1を導入したヒト由来HeLa細胞を用い、構築したシステムの基本性能の確認を行った。結果、細胞内の温度分布を把握できること、カルシウム濃度の経時変化をリアルタイム追跡できる事を確認した。構築したシステムの計測能力は、本研究で当初計画していた仕様を満たし、実験の遂行に必要十分であることを確認できた。さらに、本システムを用い、テラヘルツの照射実験を実施した。テラヘルツの照射対象はiPS細胞とHeLa細胞であり、テラヘルツを照射してそのときの形態の経時変化をtime lapse観察した。細胞形態の変化は蛍光タンパクGFPを発現させて行い、通常の光学顕微鏡観察に比べて微細構造もハイコントラストで観察した。iPS細胞に電場強度~100 kV/cmのテラヘルツ電場を照射した結果、被照射細胞と非照射細胞のあいだに明確な形態の変化を誘発したことを示唆する結果を得た。平成31年度に計画している実験を推進するために必要な基礎固めができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、テラヘルツパルスの高強度化とともに、テラヘルツパルスによる生細胞動態制御の実現を推進する。生細胞動態制御について、具体的には以下2点の実験を行う。温度を制御することでiPS細胞の分裂に必要なタンパク質(転写因子)の産生が変化することが知られている。高強度テラヘルツパルスの照射によって、これらタンパク質の産生能の向上・制御を狙う。第一段階として、分裂増殖した核をEdU染色で選別してその分裂レートに及ぼすテラヘルツ照射の効果を検証する。ここではテラヘルツパルスを最大電場強度になるように集光照射し、テラヘルツ照射後に染色を用いてその効果を検証する。次に、分裂・増殖に対するテラヘルツパルスの照射効果におけるテラヘルツ電場の強度依存性を確認する。コントロールとして、同じ培地で培養したがテラヘルツ非照射域の細胞と、同じプロセスで培養しているが別の培地の細胞を利用する。これら3サンプル間の比較によって、テラヘルツ照射効果を明確に示す。また、ATP産生の制御を目指した研究にも挑戦する。ATPはミトコンドリアで産生され、その産生はミトコンドリアの膜電位と相関があることが知られている。具体的には、JC-1を導入したHeLa細胞にテラヘルツを照射し、その膜電位の変化を蛍光によってリアルタイム計測する。さらにATP濃度感受蛍光タンパク質ATeamを利用し、テラヘルツの照射によるATP産生の変化もリアルタイムでモニターする。JC-1とATeamの蛍光強度のテラヘルツ照射による変化の相関を解析し、ATP産生能力に対するテラヘルツパルスの効果を示す。
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Research Products
(4 results)