2017 Fiscal Year Annual Research Report
光相変化材料の超高速相転移過程における共鳴結合崩壊ダイナミクスの研究
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17H06518
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
谷村 洋 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (70804087)
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Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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Keywords | 光相変化材料 / 超高速分光 / 共鳴結合 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1) 大阪大学から東北大学へ移送された超高速分光測定用のレーザーの立ち上げと光学経路の構築を完了した。本研究では主に薄膜試料を対象とした測定を行う予定であるが、対象試料としてバルク試料を測定する必要が発生する可能性がある。光吸収性のバルク試料は透過光測定が出来ないため、複数の入射角度での反射光を測定する必要があるため、そのための経路を作成した。 (2) 本研究で主要な測定対象となる、共鳴結合結晶であるGeTe及びPbTeの、アルゴンスパッタリング法による薄膜試料作成の条件出しを完了した。まず作成した薄膜試料にEDX測定を行い、元素比を確認することにより、1:1の試料を作成するための、各スパッタリングターゲットに掛ける電圧の最適な組み合わせを決定した。さらにICP測定でより詳細に元素比を調査し、スパッタリング法で可能な限り化学量論比に近い試料を作成する条件を決定した。これらの試料に対してXRDやラマン分光測定を行い、目的の物質の反射のみが観測されたことから、単相の良質な薄膜が作成できていることを確認した。膜厚についてはエリプソメトリー分光、およびAFMを利用し、透過光測定が可能な厚さ(~30nm)の薄膜を作成するためのスパッタリング時間を決定した。 (3) 作成した薄膜試料に対して超高速分光測定を行い、光励起後の試料の可視光領域における反射率・透過率の変化をフェムト秒オーダーで追跡した。ごく弱い強度の励起光を用いた場合においても大きな光学特性の過渡変化を示すことを確認した。特にPbTeにおいては、結晶構造を保ったまま透過光強度が60%程度増加するなど大きな変化を示した。今回得られた透過高強度の異常な増大は、光励起により、定常状態において可能だった光吸収が不可能になったことを表しており、過渡的に共鳴結合が崩壊したことを示唆する結果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
使用する装置が比較的旧式であることおよび使用環境に由来すると思われる、幾つかのトラブルが発生した。 まず、レーザー系の立ち上げの際、パルスレーザーを励起するための半導体レーザーのパワーが十分に上がらないという症状が発生した。業者に連絡し、内部のフォトダイオードを交換することで症状が改善したが、修理部品の取寄せのため、光学系の構成に余計な時間を要した。 さらに、測定中にレーザーの波長が徐々にシフトし、最終的にレーザー発振が停止するという症状が発生した。これは装置使用の際に、チラー等の排熱により室温が大きく変化することによって発生したものと考えられる。この症状はレーザー内部の調整、および空調やチラーの配置を工夫することにより現在は改善しているが研究の遅れの主な原因となった。 また、本研究ではプローブ光を検出する検出器として、可視光領域用と赤外領域用の2つを使用しているが、そのうちの赤外領域用のものが故障し、光強度を検出できなくなった。現在修理を依頼しているところであるが、現在までに作成した試料に対する赤外領域の測定は行えておらず、可視光領域の測定のみにとどまっている。これに関しては、修理が完了し次第、集中的に測定を行うことで遅れを取り戻すつもりでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
進捗状況の項目で記述したことであるが、これまでに測定試料に対して赤外領域の測定を行うことが出来ていないが、可視光領域の主要な測定はすでに完了している。この結果の解析を行いながら赤外領域用の検出器の修理を待ち、それが完了し次第測定を行う。修理完了から赤外領域の測定終了までには2ヶ月程要すると思われるので、それまでは他の研究者とのディスカッションを行い、得られている結果の解析を行う。 また、予想されていたことではあるが、共鳴結合の崩壊過程は非常に複雑な過程であり時間分解分光法のみでは現象の解析・理解に限界があると思われる。そのため赤外領域の分光測定が完了した後には、当初の計画通り、外部施設を利用し時間分解X線(あるいは電子線)回折による格子系の超高速変化、および時間分解光電子分光法による電子系の超高速変化を調査し、光励起による共鳴結合の崩壊するダイナミクスを解明するという本研究の目的を果たす。
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