2017 Fiscal Year Annual Research Report
Elucidation of generating mechanism of P-waves during REM sleep
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17H06520
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
常松 友美 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (80726539)
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Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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Keywords | 神経科学 / 電気生理学 / 睡眠 |
Outline of Annual Research Achievements |
哺乳類の睡眠ステージは、レム(急速眼球運動)睡眠とノンレム睡眠からなる。睡眠は本能行動のひとつとして考えられているが、現在のところ、「何のために眠るのか?」「何故夢を見るのか?」という根本的な問いに的確に回答することは難しく、睡眠の「機能」は脳科学分野における最大の謎のひとつとされている。特に、夢をみているとされるレム睡眠の機能は、実は、まだほとんど分かっていない。 レム睡眠時には、特徴的な脳波が測定される。海馬のシータ波と、橋(Pons)で発生するPonto-Geniculo-Occipital(PGO)波である。海馬のシータ波は、探求行動をしている覚醒時にも観察されるが、PGO波は、レム睡眠時にしか観察されない。PGO波は、ネコで発見され、当初、同様の波形が次々と伝播し、外側膝状体(Lateral Geniculate Nucleus)や後頭葉(Occipital Cortex)でも記録されたことから、PGO波と命名された。その後、ラットでも報告されたのだが、橋でのみ観察されるため、P波と呼ばれている。ラットを用いた先行研究においでは、コリン作動薬を脳幹に投与すると、P波の発生頻度が増加し、P波と記憶学習との関連を示唆する行動実験が報告されている。しかし、薬理学的手法では、レム睡眠時のみならず、ノンレム睡眠時にもP波を発生させてしまい、さらに解析の時間解像度も低い。一方、マウスでは、P波の測定に成功した例は皆無に等しい。 本研究では、遺伝学的手法が使えるマウスにおいて、in vivoでP波を測定し、さらにP波発生メカニズムを電気生理学的に詳細に解析する。また、オプトジェネティクスを用いることで、レム睡眠時のみに、人為的にP波を光惹起し、記憶定着への影響を検討する。本研究では、今まであまり注目されてこなかったP波の役割、また、レム睡眠そのものの機能をも追究する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、まず、マウスにおけるP波の計測、ならびに、P波の発生に関与する、橋に局在する神経核の同定を目的としている。そのため、本年度は、マウスを用いたP波の測定、および脳幹より、神経活動の記録を行った。 無麻酔・頭部固定下の状態で、睡眠覚醒を繰り返すマウスの脳に、32チャンネル記録電極を搭載したシリコンプローブを急性的に刺入し、橋の神経からin vivo細胞外記録を行った。睡眠覚醒ステージを判定するために、脳波と筋電位も、同時に測定した。当初の予定では、ガラス電極を刺入し、1個の神経細胞から記録を行う予定であったが、4シャンクのシリコンプローブを用いることで、一度に数十個程度の神経細胞の活動を、橋広範囲かつ、長時間(5時間程度)連続して記録することに成功した。P波は、刺入したシリコンプローブの局所フィールド電位をもとに測定し、レム睡眠時に最も発生頻度が高くなることを確認した。刺入したシリコンプローブの位置は、あらかじめ、DiI(赤色色素)を塗布しておき、記録後、脳スライス標本を作成することで確認した。P 波のようなスパイク状の脳波が発生する際には、局所で、神経のバースト発火が起こっていると考えられる。そこで、得られたデータを詳細に解析したところ、内側傍小脳脚核、青斑下核、橋脚被蓋核、前庭神経内側核に局在する神経が、P 波に先行して、バースト発火することを見出した。 当初の予定よりも、より効率的に、たくさんの神経活動を記録することに成功したため、当初の計画以上に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度、無麻酔・頭部固定下で、睡眠覚醒を繰り返すマウスの脳に、32チャンネル記録電極を搭載したシリコンプローブを刺入し、橋の神経よりin vivo細胞外記録を行った。使用したプローブは、4シャンクであり、広範囲の神経核より、一度にたくさんの神経活動を記録した。P波は、刺入したプローブの局所フィールド電位をもとに測定した。 本年度は、データの解析を中心に行う。P波のようなスパイク状の波形が発生する際には、局所で、神経のバースト発火が起こっていると考えられる。得られたデータを解析したところ、現時点で、内側傍小脳脚核、青斑下核、橋脚被蓋核、前庭神経内側核に局在する神経が、P波に先行して、バースト発火することを見出した。さらに詳しくその発生源を特定するために、電流源密度測定法や、グレンジャーの因果性検定などを用いて、解析を行い、P波の発生メカニズムを解明する。得られた結果をまとめ、早急に単独筆頭著者として、論文発表を行う。 さらに、オプトジェネティクスを用いて、レム睡眠時のみにP波の発生頻度を人為的に制御する実験を行う。これには、コリン作動性神経特異的に、青色光活性化タンパク質であるチャネルロドプシン2を発現する遺伝子改変マウスを用いる。P波を測定し、かつ、光操作をするため、オプトロードを橋に刺入し、コリン作動性神経核に光照射をする。レム睡眠中のP波の生理的な意義を探るため、本研究では、海馬依存性恐怖条件付け学習課題を行う。恐怖条件付け後、マウスをケージに戻し、自由行動下で、6時間程度、睡眠覚醒を繰り返させる。このとき、脳波と筋電図をもとにレム睡眠を判定し、青色光照射を行い、P波を惹起させる。その後、テスト試行を行い、フリージングを指標に、恐怖記憶の定着を評価する。本研究では、レム睡眠時P波の発生頻度と記憶定着度の相関・因果関係を明らかにすることで、P波の学習への寄与を解明する。
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