2017 Fiscal Year Annual Research Report
大脳皮質形成における環境ストレス応答下流カスケードの解析
Project/Area Number |
17H06563
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
石井 聖二 慶應義塾大学, 医学部, 特任講師 (非常勤) (50468493)
|
Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
|
Keywords | 環境ストレス応答 / 大脳皮質 / アルコール投与 / 樹状突起 |
Outline of Annual Research Achievements |
胎生期のマウス大脳皮質の神経細胞が、様々な環境ストレスに対して高い耐性を有するために熱ショックシグナル経路の活性化が不可欠である事を、研究代表者らは世界に先駆けて明らかにした。一方で、出生直後の短期間は環境ストレスに対して一時的に耐性を失い、その後、生後、約3週目までに再び耐性を獲得する事が知られている。このことは、大脳皮質神経細胞には環境ストレスに対して脆弱となる「臨界期」が存在することを示唆している。さらに、成熟した成体神経細胞では環境ストレスに対する熱ショックシグナル経路の活性化が惹起されないことから、臨界期を境として、胎児期型の熱ショックシグナル経路を介したストレス耐性機構から、成体型の別の機構へと変遷している可能性が考えられる。マウス大脳皮質の神経細胞では、一次繊毛は胎生期にはまだほとんど存在せず、生後に形成され、生後3週目までに成熟することが知られている。そこで、大脳皮質神経細胞は、生後3週目以降は、一次繊毛を起点としたストレス応答性を獲得するという仮説を立てた。この仮説を検証するため、研究代表者らは大脳皮質特異的なEmx1-Creマウスと、flox Ift88マウスを用いて、大脳皮質特異的に一次繊毛を欠損したマウス(Ift88 cKOマウス)を作製した。そして、Ikonomidouらが確立したアルコール曝露法を用いて、生後7日目の Ift88 cKOマウスに環境ストレスを負荷した。その結果、cKOマウスでは、大脳皮質の第5層の細胞質内に特異的な斑点状の活性型Caspase-3シグナルが多数散在する事を見出した。そこで、アルコール曝露下でのcKOマウス群における神経細胞の樹状突起の長さ、および分枝の複雑度を解析したところ、いずれも有意に減少することを見出した。以上の結果から、臨界期後に一次繊毛に依存して誘導されるストレス応答シグナルの存在が示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究代表者の研究により、ストレス応答して熱ショックシグナル経路が過剰に活性化したニューロンは、細胞の接着と移動が異常となることが初めて示された。しかし、ストレス応答から細胞の接着や移動の異常に至る経路は、全く不明であった。そこで、環境ストレスに応答する細胞内の現象をマウス個体の胎生期の脳内で調べることにより、環境ストレスと胎生期の脳の発生との関係を解明する予定であった。しかし、熱ショックシグナル経路と一次繊毛は、機能的相互作用があることから、初めに研究代表者は一次繊毛が胎生期の神経細胞において熱ショックシグナル経路の活性を抑制することで、環境ストレスに対して脆弱になるという仮説を新たに立て、研究を開始した。興味深いことに、胎生期にはほぼ存在しない大脳皮質の神経細胞の一次繊毛は、生後3週目までに成熟するということが知られているため、神経細胞の環境ストレスに対する脆弱性が上昇する時期と、一次繊毛の成熟する時期に相関が見られるのではないかと考えた。また、哺乳動物細胞の一次繊毛は、細胞外のシグナルを感知するセンサーとして発生に必要なシグナル伝達に関与し、ヘッジホッグなどの細胞外シグナル依存的にその受容体を一次繊毛膜上に蓄積することにより、細胞外シグナルを増強することから、大脳皮質神経細胞は、生後3週目以降は、一次繊毛を起点としたストレス応答性を獲得するという仮説に修正し、研究を進めることにした。これまでに、大脳皮質特異的に一次繊毛を欠損したマウス(Ift88 cKOマウス)を作製し、生後7日目のIft88 cKOマウスにアルコールを投与したところ、Ift88 cKOマウスでは、細胞質内に特異的な斑点状の活性型Caspase-3シグナルが多数散在する事を見出した。以上より、これまでの当初の予定とは違った研究の方向性にはなっているものの、研究計画はおおむね順調に進行している。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでに神経細胞の生存にミクログリア由来のインスリン様成長因子1 (IGF1) が寄与していることが知られ、またIGF1やIGF1の受容体は大脳皮質の第5層において高発現していることが知られている。よって、一次繊毛の存在下では、IGF1-Akt経路が活性化することで神経細胞が環境ストレスに対する抵抗性を獲得する可能性が高い。そこで、まず、アルコール曝露に対するIGF1受容体の挙動を解析すると共に、その下流シグナル伝達機構を解析する。さらに、一次繊毛非存在下における、Caspase-3依存的な樹状突起の発達不全の分子機構を明らかにする。 研究項目1 一次繊毛を起点とした IGF1-Akt経路活性化機構の解明 アルコール曝露による一次繊毛膜上でのIGF1受容体の活性化機構の検証を行うため、活性型IGF1受容体に対する抗体を用い、アルコール曝露下の生後7日目の一次繊毛膜における発現を解析する。また、IGF1下流に存在する分子の活性化の可能性の検証を行うため、アルコール曝露下において、IGF1の下流シグナル分子であるIRSやAktのリン酸化の検出を免疫染色により検討する。 研究項目2 活性型Caspase-3により樹状突起内でゴルジ体が切断される機構の検証 ゴルジ体が局在しない樹状突起は、長さ、分岐数がともに低下すること 、及び、ゴルジ体関連タンパク質であるGRASP65は活性型Caspase-3によって切断されることがわかっている。従って、アルコール曝露下ではCaspase-3が細胞死非依存的にゴルジ体を断片化することで樹状突起の伸長および分枝を阻害している可能性が考えられる。この可能性を検証するために、まずアルコール曝露下の樹状突起に存在するゴルジ体において、活性型Caspase-3及び GRASP65の切断を免疫染色により解析する。
|
Research Products
(6 results)