2017 Fiscal Year Annual Research Report
Balzac and the Literary Magazine (1833-1836)
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17H06585
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
谷本 道昭 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (50806974)
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Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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Keywords | バルザック / 文芸誌 / 出版文化史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究「バルザックと文芸誌の詩学(1833-1836年)」は、19世紀フランスの作家バルザック(1799-1850年)の1833年から1836年にかけての創作を同時代の文芸誌との関わりにおいて考察することを主眼としている。これまでの文学研究においては、作品を一個の完成品として「静的」に捉える傾向が強く見られたが、本研究では出版文化史研究の手法、成果を踏まえつつ、作品をその創作段階から「動的」に捉え、作品本来の力学を歴史的に検証する。 平成29年度は、おもに1830年代フランスの文芸誌の調査、収集を行った。資料の多くはフランス国立図書館に所蔵されており、インターネットサイトからのダウンロード、複写依頼、現地での調査を通じて、『パリ評論 Revue de Paris』『レコー・ド・ラ・ジューヌ・フランス L'Echo de la Jeune France』『クロニック・ド・パリ Chronique de Paris』『ヨーロッパ文芸 Europe litteraire』の複写を入手することができた。バルザックが寄稿を行なっていたこれらの文芸誌を通覧することによって、『十三人組物語』や『ゴリオ爺さん』といった重要作品を、刊行当時のヴァージョンで分析することが可能となっただけでなく、同時代の出版文化の大きな流れの中に作品を位置付け直し、バルザックの創作と「文芸誌の詩学」との関係を問うための準備が整ったといえる。 本研究の内容、方針については、資料調査、収集のために赴いたフランスで、バルザックを中心とする19世紀フランス文学・出版文化史研究を牽引するジョゼ=ルイス・ディアズ教授(パリ第7大学名誉教授)、マリ=エヴ・テランティ教授(モンペリエ大学)と意見交換を行う機会に恵まれた。その際、本研究の意義、重要性に対して両教授から評価を受けた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以下にあげる理由により、現在までの研究は「おおむね順調に進展している」と自己評価することができる。 1. 資料収集について:本研究の一次資料となるのは19世紀前半の貴重な文字資料であり、その多くがフランス国立図書館に所蔵されている。そのため、日本からの資料収集には困難が伴うことが予想された。しかし、一部の資料は電子ファイルとして無料公開されており、容易に入手できた。その他の資料も、有料ではあったが複写資料として電子ファイルを入手することができた。いずれの場合も、複写資料の多くは解像度の高い電子ファイルであり、コンピューターやタブレットによる閲覧が可能であるため、研究を円滑に進めることができた。その他の資料に関しても、国内外の図書館、書店を利用しながら、質の高い研究文献、翻訳文献などを入手することができている。 2. 資料の分析、読み込みについて:年間を通じて本研究を遂行するに足る時間を確保することができている。現在、収集した一次資料の分析、読み込みを行なっている最中であるが、本研究の柱となる1833年から1836年にかけてのバルザックの作品についてはすでに通読することができており、研究発表の準備を進めている。 3. 研究成果の公表について:平成29年度から、勤務先である東京大学の言語態研究会において「文芸誌を再考する」と題したワークショップを主催し、今年度も継続して活動を行なっている。2017年12月には「文芸誌を再考するーバルザックと文芸誌の詩学「序論」」と題した研究発表を行った。今後も所属学会での口頭発表、大学紀要論文執筆などを通じて、研究成果の公表を積極的に行なっていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、まず、初年度に収集した一次資料、二次資料の読み込みをさらに進め、口頭発表や論文を通じて、研究成果の公表に努める。 2018年6月には日本フランス語フランス文学会全国大会において、バルザック『ゴリオ爺さん』を取り上げる研究発表を行う予定である。1835年3月刊行の『ゴリオ爺さん』は1834年12月から翌年2月にかけて『パリ評論』誌に連載され、翌3月には同誌に「序文」が掲載されたという出版の経緯がある。また『ゴリオ爺さん』は、「再登場人物」を介して、1832年9月10月に『パリ評論』誌に掲載された『捨てられた女』『ざくろ屋敷』、当初『パリ評論』に掲載が予定されていながら1833年4月に『レコー・ド・ラ・ジューヌ・フランス』に部分掲載された『斧に触れるな』の三作とも密接に結びついており、創作段階から文芸誌と切り離せない関係にある。発表では、この当時の文芸誌の重要な読者層となり始めていた女性読者の存在に目を向けることによって、『ゴリオ爺さん』のクライマックスをなすボーセアン夫人の最後の夜会に、バルザックが「罪を犯した女たち」を再登場人物として登場させたことの意義を明らかにしたい。 研究成果の公表と並行して、今後は1830年代に相次いで創刊された「女性雑誌」を新たな調査、収集の対象としたい。『女性新聞 Journal des femmes』『家庭の母 La Mere des familles』『女性の助言者 Conseiller des femmes』といった女性雑誌は、批評記事やバルザックをはじめとする男性作家への働きかけを通じて、同時代の文学の動向に大きな影響を与えたことが知られている。文芸誌と女性雑誌を併読することによって、バルザックがその中心に身を置いていた1830年代の出版メディアの様相を立体的に捉えていくことが可能になるだろう。
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