2017 Fiscal Year Annual Research Report
局在多極子と伝導電子の混成による新奇量子相および量子臨界現象の研究
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17H06602
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
酒井 明人 東京大学, 物性研究所, 助教 (10806087)
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Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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Keywords | 多極子秩序 / 近藤効果 / 熱膨張 |
Outline of Annual Research Achievements |
PrV2Al20はスピン自由度の無いΓ3結晶場基底状態を持ち、伝導電子と電気四極子の混成による非フェルミ液体や超伝導といった現象を示し、さらに多段の多極子転移を示すため大変注目を集めている。本年度はPrV2Al20の多極子秩序の2段転移、および磁場中での量子臨界点の可能性を調べるため、極低温度かつ高磁場中での熱膨張・磁歪測定を行った。 2段転移はサンプルの純度に大きく依存するため純良なサンプルが不可欠である。従来の合成方法を見直すことで純良で大型な単結晶を得ることに成功し、比熱測定により明瞭な二段転移を確認した。 得られたPrV2Al20単結晶を用いて行った熱膨張・磁歪測定では以下のような発見があった。(1) 当初の期待の通り約11 Tの磁場で熱膨張係数が発散し、熱膨張係数と比熱の比で定義されるグルナイゼン係数も発散することがわかった。これは磁場中に四極子秩序の量子臨界臨界点が存在することを示唆している。(2) さらに興味深いことに、低磁場で磁歪係数がヒステリシスを示した。この低磁場での異常は異方性があり、111方向磁場で111方向の膨張方向にのみ表れる。この異方性およびヒステリシスは、磁気八極子秩序相が低温低磁場で存在すると考えると自然に理解できる。混成が強くなることで多体の相互作用により磁気八極子秩序が安定になることが最近の理論的研究[F. Freyer et al., PRB 97, 115111 (2018).]によっても示されており、今回の実験結果とコンシステントである。 これらの成果はPrV2Al20における伝導電子と混成した多極子秩序を理解する上で大変重要な発見であり、日本物理学会やワークショップ等(招待講演含む)で報告され、現在論文を執筆中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画の通りにPrV2Al20の極低温熱膨張・磁歪測定を実施することができたため概ね順調に進んでいるといえる。またそれにより磁気八極子秩序を示唆する結果が新たに得られており、今後の研究を大きく前進させる指針になると考える。一方で共同研究で実施予定であったNMR、及び中性子散乱実験については実験がスタートしたところであり、次年度に成果が期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
PrV2Al20の2段転移の原因は長い間未解明の謎であったが、我々の実験で始めて磁気八極子秩序を示唆する結果が得られた。これは最近の理論で予言されている伝導電子と多極子の混成によって生じた新しいタイプの多極子秩序である可能性が高い。さらに様々な条件で熱膨張・磁歪測定を継続する一方、NMRや弾性定数測定などの共同研究を通して多角的に明らかにする。
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