2017 Fiscal Year Annual Research Report
排尿筋低活動の病態解明と求心性神経活動に着目した新規治療標的の探索
Project/Area Number |
17H06638
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
亀井 潤 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (80805622)
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Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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Keywords | 排尿機能学 / 加齢医学 / 排尿筋低活動 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画に基づき、骨盤神経障害モデルによるモデルラットが排尿筋低活動モデルラットとして妥当かどうかを検証した。本実験では、骨盤神経への障害を定量化するため、両側の骨盤神経を5g重の力で1分間、5分間牽引したモデル動物の排尿行動を、偽手術群の動物と比較検討した。 その結果、1分間の牽引では、術後5日後に平均尿流率の低下と非排尿性収縮の頻度・振幅の増加を認めた。しかし、その他のパラメータには差が見られず、特に残尿量の増加や排尿効率の低下といった排尿筋低活動に特徴的と考えられる変化が期待通りには見られなかった。また、術後7日目には5日目にみられていた変化も改善してしまうことが判明し、5g重1分間の牽引では、十分な期間有意な差を持った機能障害を作ることは難しいことが明らかとなった。 一方で、5分間の牽引では、術後5日目に膀胱容量と残尿量、非排尿性収縮の回数・振幅が増大し、平均尿流率と排尿効率は低下する傾向が見られた。したがって、5g重5分間の両側骨盤神経牽引は排尿筋低活動のモデル動物の候補になりうる可能性を期待したが、詳細に個々の個体のデータを見ると、膀胱容量、残尿量、排尿効率のいずれのパラメータにおいてもばらつきが非常に強く、ほとんど障害を受けていない個体と障害が強くほとんど自排尿ができない個体に二極化していたことが明らかとなった。この問題は、モデル動物の作成数を増やすことで手技の安定を図っても変化せず、治療標的の探索、薬効評価を行うには適切な中等度の障害を持ったモデル動物を安定的に作成することが困難であるとの結論に至った。 したがって、今回の検討に用いた骨盤神経障害モデルは、膀胱機能障害を来しうるが、ヒトの排尿筋低活動の病態に近似したモデル動物として治療標的の探索、薬効評価を行うには適切なモデルとは言い難いと考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度検討を進めた骨盤神経障害モデルによる排尿筋低活動モデル動物は、群間の平均値としては排尿筋低活動モデルの候補になりうる結果が得られていたが、膀胱機能障害を生じる個体と生じない個体のばらつきが多かった。 この結果は、条件の調整や手技の安定性により改善可能な可能性があると判断したため、当初予定していた他のモデル動物の作成より優先して、本モデルでの条件の調整を行いながら検証を重ねた。 結果的に、作成した動物数が増加しても個体間のばらつきは改善せず、薬効評価に適した中等度の排尿筋低活動を有するモデル動物を本モデルで安定的に作成することが困難との結論に至り、他のモデル動物作成に移行したが、予定以上に条件検討を重ねたことが実験計画の遅れの原因であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、当初の計画に従って、膀胱過伸展モデルによるモデルラットおよび内腸骨動脈結紮によるモデルラットの作成を行い、引き続きこれらのモデル動物の排尿筋低活動モデルとしての妥当性を検証する。 まず、24時間排尿行動の経時的変化と術後5日後の膀胱内圧測定を行い、薬効評価に適した程度の排尿筋低活動が安定して生じるかどうかを確認の上で、候補となったモデルに対して、摘出膀胱の等尺性収縮実験と病理組織学的評価を行い、偽手術群との差を評価する。 その上で、膀胱および後根神経節におけるムスカリン受容体、ATP受容体、TRPチャネルファミリーのmRNAおよびタンパク発現の変化を評価する。 さらに、伸展刺激や化学的刺激によって尿路上皮から放出される求心性神経作動物質の放出量をウッシングチャンバー法で定量し、比較する。 これらの検討によって排尿筋低活動の病態との関連が疑われる受容体やTRPチャネル、神経伝達物質の特定を進めることで、治療標的の探索を進めていく予定である。
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