2017 Fiscal Year Annual Research Report
母体の栄養環境を介した子のエピゲノム記憶遺伝子の探索
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17H06652
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
辻本 和峰 東京医科歯科大学, 医学部附属病院, 助教 (20801525)
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Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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Keywords | エピジェネティクス / DNAメチル化 / 母体栄養環境 / DOHaD |
Outline of Annual Research Achievements |
1.異なる栄養環境に応じてDNAメチル化が変化する代謝関連遺伝子の抽出 周産期に高脂肪食を摂餌した母マウスの産仔(過栄養群)、あるいは摂餌制限を行った母マウスの産仔(低栄養群)の肝臓を乳仔期(生後16日齢)に採取し、次世代シークエンサーを用いたRRBS(Reduced Representation Bisulfite Sequencing)法によりDNAメチル化変化を、またDNAマイクロアレイ法により遺伝子発現を網羅的に解析した。その結果、過栄養群でDNAメチル化が低下し、かつ発現増加した遺伝子群は脂質合成に関連する遺伝子群が多く抽出され、それらは転写開始点近傍の領域を中心にDNA脱メチル化変化を生じていた。さらにこれらの遺伝子群の中で抽出されたいくつかの個々の遺伝子については、乳仔期(生後16日齢)のDNAメチル化状態をバイサルファイトシークエンス法を用いて定量的に評価した。 各群のマウスの代謝表現型については、過栄養群は、乳仔期において対照群と比較して肝重量が増加しインスリン抵抗性が増加すること、また成獣期において対照群と比較して肝臓における脂肪含有量が増加することを確認した。
2.母体から供給される乳汁の脂肪酸組成解析 過栄養および低栄養の母体から供給される乳汁の脂肪酸組成をガスクロマトグラフ質量分析計を用いて解析した。解析の結果、複数の脂肪酸の含有量が過栄養群あるいは低栄養群で変化していることを確認した。今後これら含有量が変化した脂肪酸の中からDNAメチル化変化を誘導しうる脂肪酸の同定を試みる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「Ⅰ. 異なる栄養環境に応じてDNAメチル化が変化する代謝関連遺伝子の抽出」については、主要な実験である、過栄養群および低栄養群の乳仔期の肝臓におけるDNAメチル化および遺伝子発現の網羅的解析をすでに完了した。この実験の中で、過栄養群でDNAメチル化が低下し、かつ発現増加した遺伝子群は脂質合成に関連する遺伝子群が多く抽出された。 「Ⅱ. 栄養環境に応じたDNAメチル化変化の分子メカニズム解明」については、今後乳仔期(生後16日齢)の肝臓を用いて、DNA脱メチル化酵素であるTET(Ten-Eleven Translocation)あるいはDNAメチル化酵素であるDnmt(DNA methyltransferase)の遺伝子プロモーター領域への結合をクロマチン免疫沈降法(ChIPアッセイ)を用いて評価する予定である。 「Ⅲ. 母体から供給される乳汁の脂肪酸組成解析」については、過栄養および低栄養の母体から供給される乳汁の脂肪酸組成の解析をすでに完了した。 「Ⅳ. エピゲノム記憶遺伝子の同定」については、過栄養群および低栄養群の成獣期(14週齢、24週齢)における代謝表現型の解析をすでに完了した。今後は、乳仔期と同様にDNAメチル化変化の網羅的解析を行い、DNAメチル化変化が維持される「エピゲノム記憶遺伝子」の同定を試みる。 以上から、本研究課題はおおむね順調に進展しているものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
過栄養群および低栄養群の産仔の成獣期(14週齢、24週齢)における肝臓について、乳仔期(生後16日齢)と同様に、DNAメチル化変化の網羅的解析を行う。そして成獣期において生後16日齢と同じDNAメチル化変化が見られた遺伝子、すなわち栄養環境を介したDNAメチル化変化が維持された遺伝子群を「エピゲノム記憶遺伝子」として抽出する。抽出された遺伝子に関してバイオインフォマティクス解析(機能解析、モチーフ解析、DNAメチル化領域の特定)を行う。 また抽出された代表的な遺伝子については、乳仔期(生後16日齢)の肝臓を用いて、前述したTETあるいはDnmtの遺伝子プロモーター領域への結合をChIPアッセイを用いて評価し、栄養環境に応じたDNAメチル化変化の分子メカニズム解明に迫る。TETによるDNA脱メチル化の代謝産物である5ヒドロキシメチル化シトシン(5hmC)の定量解析も併せて行い、乳仔期の肝臓におけるTETを介したDNA脱メチル化の有無を確認する。
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