2017 Fiscal Year Annual Research Report
相対的低酸素環境に基づく新たなアレルギー病態の解析
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17H06669
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
松田 研史郎 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 産学官連携研究員 (70642619)
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Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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Keywords | マスト細胞 / TRPA1 / アナフィラキシー / 酸素センシング / 相対的低酸素 |
Outline of Annual Research Achievements |
相対的低酸素環境は、75%酸素濃度から急激に通常酸素濃度環境に落とすことで再現できる。そこで、野生型マウス及びマスト細胞遺伝子欠損マウス、TRPA1遺伝子欠損マウスに対して相対的低酸素刺激を与え、アナフィラキシー症状の指標である血管透過亢進性(エバンスブルー投与法)、直腸温度の低下率をモニタリングしたところ、野生型マウスにおいてのみアナフィラキシー様症状が確認された。また各種マウスの皮膚組織を10%中性緩衝ホルマリンにて固定後、トルイジンブルー特殊染色にてマスト細胞を選択的に染色した結果、野生型マウスの皮膚組織においてマスト細胞浸潤過多が認められた。一方、マスト細胞遺伝子欠損マウスの皮膚組織ではマスト細胞が一切認められず、TRPA1遺伝子欠損マウスの皮膚組織ではマスト細胞浸潤過多が認められなかった。次に、アナフィラキシー症状を呈する酸素濃度閾値を探索したところ、60%酸素濃度からの相対的低酸素刺激では同様の症状が認められたが、50%からの相対的低酸素刺激では、血管透過性の亢進や直腸温度の低下などのアナフィラキシー様症状を呈さず、酸素濃度とアナフィラキシーの重症度(血管透過性の亢進、直腸温度低下率)は相関することが分かった。 次に野生型マウスから採取した骨髄由来培養マスト細胞及びヒトマスト細胞株HMC-1、マウスマスト細胞株P-815を培養し、in vitroモデルでの相対的低酸素環境の再現後、TRPA1及びTRPV1発現をウエスタンブロット法及び免疫蛍光染色法で確認した。TRPV1は刺激前後で発現が認められなかったが、TRPA1は通常酸素濃度でも一定量発現しており、刺激によって発現量がさらに増強されることが分かった。また、in vivoモデル試験と同様に60%酸素濃度が発現増強閾値であることも分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
相対的低酸素刺激によるメディエーター細胞と酸素濃度閾値の解析 本年度は特にどの程度の酸素濃度落差によってアナフィラキシー病態に寄与する症状を呈するか、その濃度閾値の解析を詳細に行った。酸素誘導性網膜症モデルと同様の75%濃度からの相対的低酸素刺激では、有意な血管透過性の上昇と直腸温度の低下を伴うアナフィラキシー様症状が認められ、濃度落差依存的にアナフィラキシー症状の重症度は変化することがわかった。また、50%酸素濃度では全く認められなかったことから、毒性を有する酸素濃度は50%であることが示唆された。これらの結果は、マスト細胞及びTRPA1遺伝子欠損マウスでは認められなかった。そこで、次にマスト細胞遺伝子欠損マウスの腹腔内に野生型マウス及びTRPA1遺伝子欠損マウスから採取した骨髄由来マスト細胞を投与したところTRPA1遺伝子欠損マウス骨髄由来マスト細胞を投与したマスト細胞遺伝子欠損マウスでは、アナフィラキシー様症状が認められなかった。以上のことから、マスト細胞に発現するTRPA1チャネルが本モデルにおけるアナフィラキシー様症状のメディエーターであることが示唆された。
マスト細胞株を用いたTRPチャネル発現解析 野生型マウス骨髄由来マスト細胞及びヒトマスト細胞株HMC-1、マウスマスト細胞株P-815におけるTRPチャネル発現を解析したところ、通常酸素濃度でもTRPA1がマスト細胞に発現していることが分かった。そこで、各種細胞に対して相対的低酸素刺激(75%→20%、60%→20%、50%→20%)を加えTRPA1及びTRPV1の発現を確認したところ、通常酸素濃度で培養した対照群と比較して75%→20%、60%→20%では、軽微だがTRPA1の発現が増加した。
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Strategy for Future Research Activity |
アナフィラキシー様症状の病勢と重症度は直腸温度の低下率、血管透過性の他大脳皮質血流量、脳組織の形態学的変化によっても評価される。そこで次年度は大脳皮質血流量をレーザードップラー法により定量解析し、さらにアナフィラキシー反応に基づく血液脳関門の透過性の増加による脳内へのIgGの漏出を免疫組織学的に解析する。 また、今年度の結果をもとに相対的低酸素刺激後のマスト細胞に発現するTRPA1によるプロトン流入などの機能学的解析を行い、TRPA1阻害剤やマスト細胞スタビライザーの投与による薬物効果と発病及び病勢の改善状況を定量化する。これにより酸素起因性アナフィラキシー病態におけるエフェクター分子(各種サイトカイン、ヒスタミンなどの化学伝達物質、NGF、血管新生因子、プロテアーゼなど)を明確にし、分子標的治療としての有用性を検討する。 相対的低酸素刺激がマスト細胞の活性化に基づくアレルギー反応に寄与する可能性が示唆されたことから、今後はアナフィラキシー症状に対する試験を継続的に実施することに加えて、アトピー性皮膚炎に対して酸素起因性刺激が寄与しているのか探索する。アトピー性皮膚炎は増悪化と完解を繰り返す慢性的な掻痒を伴う難治性疾患である。NC/Tndマウスはその代表的な動物モデルであり、Conventional環境下では生後約8週から皮膚炎と免疫異常を自然発症する。そこで本モデルマウスに対してアトピー性皮膚炎発症前の6週齢から週齢ごとに相対的低酸素刺激を加え、アトピー性皮膚炎の臨床症状の指標である痒覚、発赤、浮腫、擦過傷、乾燥の5項目の重症度や掻把行動を詳細に解析することで、アレルギー病態と酸素の連関性を詳細に評価する。
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