2017 Fiscal Year Annual Research Report
原子層遷移金属ダイカルコゲナイドを用いた高機能・高性能光デバイスの創出
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17H06736
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
蒲 江 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (00805765)
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Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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Keywords | 遷移金属ダイカルコゲナイド / 電解質 / 発光ダイオード / 二次元材料 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、Internet of Things(IoT)を体現する革新的光機能デバイスを実現する。具体的には、多彩な(可視―赤外)発光領域を有する原子層遷移金属ダイカルコゲナイド(TMDC)と電解質を用いたユニークな素子構造を組み合わせることで、高柔軟性・高伸縮性(高機能)と高効率・高感度(高性能)を両立する原子層近赤外発光・受光デバイスの作製を目的とする。特に平成29年度は、(1)近赤外発光TMDCを用いた素子作製とその発光・受光特性の解明と(2)柔軟性・伸縮性を有する基板上への素子作製技術の構築と機械的変形に対する光学特性評価を行った。以下にそれぞれの項目について記述する。 (1)電解質を用いた、極めて簡易な構造と作製プロセスでTMDC発光デバイスを作製する手法を確立した。本手法を様々な材料(MoS2, WS2, WSe2, MoSe2, ReS2等)及びそれらの人工ヘテロ構造(MoS2/WSe2面内ヘテロ接合等)に導入し、これらの材料・構造において可視ー近赤外領域の発光素子を実現した。特に、分光・イメージング測定により、本材料の特異な電子構造に起因した円偏光発光特性も明らかにした。以上の結果により、近赤外発光を有する原子層発光素子の実現に加え、その偏光特性も制御可能な新たな光機能開拓の可能性も見出した。 (2)MoS2及びWS2を液相転写法を用いて、プラスチック基板上に転写し、その発光素子を作製した。特に、湾曲や圧縮を行った際に誘起される歪みに対して発光特性評価を行った。光励起発光分光の評価により、歪みによる材料の電子構造変化とそれに対応した発光波長・効率の変調を定量的に調べた。これにより、可塑性基板上の発光素子動作時における素子設計の指針を構築した。同素子作製と評価手法は今後様々な材料に拡張する予定であり、その特性・性能評価を現在進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究提案である、原子層遷移金属ダイカルコゲナイド(TMDC)による高柔軟性・高伸縮性(高機能)と高効率・高感度(高性能)を両立する発光・受光デバイスの実現に対し、前年度の予定では様々なTMDC材料による発光デバイス作製と、可塑性基板上におけるデバイス作製技術の構築を達成目標としていた。 これに対する現在の進捗状況として、既に可視―近赤外にわたる6種類のTMDC材料(MoS2, MoSe2, WS2, WSe2, ReS2, ReSe2)において発光デバイス作製に成功しており、その駆動メカニズムや発光効率等の特性評価も完了している。また、MoS2とWS2においては、プラスチック基板上においてデバイスを作製しており、歪み印可に対する光学特性の変調も確認している。同手法は材料の拡張を現在行っており、柔軟性・伸縮性を有する発光デバイス作製・評価手法が確立できている。このように、当初の目標に対して、十分な進捗状況にあり、次年度の研究計画を速やかに遂行する準備が整っている。 さらに、一連のプロセス・デバイス評価を通して、本材料において特異な電子構造に起因した円偏光発光特性も明らかとなった。この結果を受け、本材料の発光デバイスにおいて偏光情報を制御する手法の確立も可能となり、新たな光機能開拓の可能性を見出した。したがって、研究提案以上の新奇機能性光デバイスの実現が期待でき、今後TMDC材料の応用可能性をさらに拡げる成果が見込める。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、原子層遷移金属ダイカルコゲナイド(TMDC)を用いた発光デバイスの高効率化に取り組む。既に、前年度の研究成果として、様々な発光波長を有するTMDC材料において電解質を用いた発光デバイスを実現した。また、プラスチック基板上における発光デバイス作製にも成功しており、歪みに対する特性評価も完了している。したがって、本年度は前年度確立したデバイス・プロセス技術に加え、発光効率の向上を達成することで、最終的には高機能と高性能を両立する発光デバイスの実現を目指す。具体的には、以下の項目について取り組む。 (1)化学修飾及びプラズモン効果導入による発光効率の向上 化学的な表面処理とプラズモン効果を導入することで発光デバイスの性能向上を検証する。例えば、電子供与性・吸引性高分子を用いた化学的なドーピングによりTMDCの発光効率向上が狙える。また、材料表面に金ナノ粒子を被覆することで、表面プラズモン共鳴による発光効率の向上も期待できる。これらの手法を近赤外発光TMDCに適用し、処理プロセス等の最適化を通して発光効率の改善を行う。表面修飾による効果が期待より小さい場合は、ヘテロ構造の導入も検討し、多重量子井戸構造による更なる効率改善にも取り組む。 (2)可塑性基板上への高効率発光デバイスの作製 前年度に確立したTMDCの転写技術を用いて、プラスチック基板上に発光デバイスの作製を行い、上記の表面修飾を導入する。特に、可塑性基板上では表面処理によりデバイス特性や発光効率が大きく影響されるため、処理条件や修飾物質の最適化を適宜行う。また、転写プロセスによるデバイスの大気安定性や電気化学的安定性の低下も予想されるため、絶縁膜等によるパシベーション技術の導入も検討する。作製したデバイスは湾曲や引張応力に対する性能評価を行い、最終的には素子の性能最大化を目指す。
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