2017 Fiscal Year Annual Research Report
A Basic Study on the Social Structure of Indus Civilization
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17H06775
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小茄子川 歩 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 客員准教授 (20808779)
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Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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Keywords | インダス文明 / 社会構造 / 中心(都市)と周縁(その他の集落) / 統一性と多様性 / 生産様式と交換様式 / 考古学 / 歴史学 / 人類学 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、インダス文明社会の物質文化にみられる「統一性」と「多様性」に関するマクロ・ミクロレベルでの検討を主題として、交付申請書に記載した「研究の目的」、「研究実施計画」に従い、インドにおける現地調査と国内(所属機関)における研究活動を実施した。また国際会議における研究成果の公表を当初の計画通りに行い、学術論文も投稿済みである。当該年度の研究成果の具体的内容と意義、重要性等は以下の通りである。 インドにおける現地調査では、インダス文明遺跡ラキー・ガリーの発掘調査プロジェクトにて、出土資料の整理および報告書作成作業に従事し、物質文化に関するマクロレベルでの検討(都市とその他の集落から出土した遺物全体の比較検討)を行った。所属機関においては、物質文化に関するミクロレベルでの検討として、インダス式印章の製作実験とSEM観察を実施し、印章の製作技術に関するデータの蓄積と検討を行ない、製作技術の詳細、地域間にみられる異同および時期差を考究した。 以上の基礎研究を通して、当文明社会の物質文化にみられる「統一性」と「多様性」のマクロ・ミクロレベルでの詳細と相互の関係の一側面が明らかになり、その歴史的意義を考究することが可能になりつつある。当該年度の研究成果は、インダス文明の社会構造の解明において、大きな意義・重要性を有する。 研究成果の公表は、第46回国際南アジア学会(米・ウィスコンシン)、第6回国際南アジア考古学会(招聘講演、印・コルカタ)において、口頭発表の形で行った。学術論文としては、上記国際会議の論文集等に投稿・受理済みである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【研究実績の概要】に記した通り、本研究課題はおおむね順調に進展している。「当初の計画以上に進展している」としない理由は以下の通りである。 ①:本年度は、デカン大学院大学考古学科が担当する発掘調査許可の申請が遅延したため、ラキー・ガリーの発掘調査プロジェクトに関連する、発掘調査を実施できなかった。またラキー・ガリー出土資料の整理および報告書作成作業に、予想以上の時間を要したため、当初予定していたインド考古局、シュリークリシュナ博物館、ハリヤーナー州考古局、バローダ大学、ラージャスターン大学およびシャー・アブドゥル・ラティーフ大学に所蔵される関連資料の調査を実施できなかった。 ②:インダス式印章の製作実験とSEM観察は当初の計画以上に進展したが、当該年度はそれらの作業を集中的に行ったため、当初予定していた3D 解析を実施できなかった。 ③:【研究実績の概要】に記したように、国際会議での口頭発表を当初の計画通りに行い、学術論文を上記国際会議の論文集等に投稿・受理済みであるが、編集・出版の都合上、まだ刊行には至っていない。加えて、それらの投稿を優先したため、当初予定していた国際的学術雑誌への学術論文の投稿を行えなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策としては、【現在までの進捗状況】の【理由】に記した①~③の「当初の計画以上に進展している」としない理由を念頭に置きつつ、以下の研究を実施する。 昨年度からの研究を継続しつつ、すでに得られた成果等に基づき、生産と交換の様式を総合的に検討し、都市とその他の集落の実態と有機的関係性を詳細に掘り下げ、物質文化にみられる「統一性」と「多様性」の相互の関係と歴史的意義を明らかにする。 生業や技術的側面と関係する生産様式の検討に際しては、昨年度からの研究を継続するかたちで、中心と周縁における生産様式のあり方をマクロとミクロという異なるレベルの視点から比較検討する。一方、経済的側面と関係する交換様式の検討に際しては、中心と周縁の物質文化を比較検討する際に、モノや情報の交換に関わる遺物(印章や分銅など)を抽出し、その分布傾向などから中心と周縁のそれぞれを特徴づけた交換様式を検討する。この交換様式の検討については、その解釈において、考古資料と文献史料の併用により、都市とその他の集落の実態と両者の有機的関係性を捉える試みが盛んになされている、南アジア前近代史研究の成果も参照する。 本研究の目的を達成するために、以上の研究を実施し、その成果を総括することで、インダス文明の社会構造の一側面を明らかにする。本年度の研究も、昨年度と同様に、現地調査と所属機関で行う研究に基づく。研究を総括する過程で、さらなるデータの獲得・検証が必要となった場合には、インドおよびパキスタンにおける補足調査を実施するものとする。 本研究の成果発表は、国際的学術雑誌、また国内学術雑誌への論文投稿によって行う。加えて本年度に開催される第47回国際南アジア学会(米・ウィスコンシン開催)等において本研究成果の口頭発表も行う。
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Remarks |
【賞罰】2017年度(第6回)日本南アジア学会賞(2017年9月23日受賞)受賞作品:小茄子川歩 『インダス文明の社会構造と都市の原理』 同成社、2016年。
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