2017 Fiscal Year Annual Research Report
原子層物質におけるバレースピン分極の物理の完全解明と制御
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17H06786
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
篠北 啓介 京都大学, エネルギー理工学研究所, 特定助教 (60806446)
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Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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Keywords | 光物性 / ナノ材料 / 半導体物性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、結晶内の運動量であるバレー自由度を利用したバレートロニクスの実現を目指して、二次元遷移金属ダイカルコゲナイドにおけるバレー擬スピン分極緩和の完全解明と制御を目的としている。先行研究では発光測定を用いた実験が行われてきたが、時間分解能が悪く、数十ピコ秒より早い初期の緩和過程を議論することが困難である。また、光らないダーク準位も緩和に寄与するため、発光測定と相補的な実験が必要である。 このため、平成29年度はバレー擬スピン緩和の初期過程の解明を目的に、時間分解過渡反射測定の光学系を新たに構築した。これにより、バレー分極緩和ダイナミクスをサブピコ秒の時間分解能で測定することが可能になった。平行して、バレー擬スピン分極の制御に向けて、電界効果トランジスタデバイス構造を試料に施して、キャリア数を制御して光学特性を変調できることを示した。電子正孔対に加えて、電子や正孔を電気的に注入することで得られるトリオンに対しても、バレー分極緩和ダイナミクスを追随することができた。 一方で、構築した光学系は可視領域のバンド間遷移の応答を検出しているため、電子と正孔を完全に区別して議論することができず、電子のバレー分極緩和と正孔のバレー分極緩和を独立して議論することが困難であるという問題点が明確になった。特に、電子と正孔がクーロン束縛される前の初期過程では、それぞれのキャリアを独立に取り扱う必要がある。 今後は、電子と正孔を独立して議論するために、実験系を赤外領域に拡張する。この実験系は電子と正孔を独立に取り扱えるだけでなく、ダーク準位のキャリア数も測定することも可能になり、バレー擬スピン分極緩和の完全解明につながると考える。さらに、バレー擬スピン分極の制御に向けて、適切な試料や、異なる試料を積層したヘテロ構造を選択して、キャリア数等のパラメータを制御しながら研究を進めていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、平成29年度に行う主要な部分として、バレー擬スピン分極度の測定システムを構築し、サブピコ秒の時間分解能でバレー分極緩和ダイナミクスを測定できるようになった。解析結果から、初期過程のバレー擬スピン分極緩和過程について新たな情報が得られて、電子と正孔が異なるバレー擬スピン分極緩和をすることが示唆された。発光では得られない初期過程の情報を得ることができ、構築した実験系がバレー擬スピン分極緩和メカニズムを調べる上で強力な実験系であることが確認できた。 また平成30年度に行う計画であったが、電界効果トランジスタデバイス構造の作製を前倒して行った。電気的に電子や正孔を注入することで、発光や反射の光学スペクトルの制御が可能であることがわかった。キャリア数によってクーロン相互作用を制御できることから、バレー擬スピン分極の制御にもつながると考える。 これらの研究結果の進捗状況は、研究計画申請時の計画通りであり、研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、バレー擬スピン分極の制御に向けて、適切な試料や、異なる試料を積層したヘテロ構造を選択して、キャリア数などのパラメータを制御しながら研究を進めていく。必要な実験系や試料のデバイス構造は平成29年度に完成しており、随時遂行できる状態にある。 さらに、バレー擬スピン分極緩和の完全解明に向けて、構築した実験系を可視領域から赤外領域に拡張していく予定である。赤外領域に拡張することで、バンド間遷移に加えて内部遷移を測定することができ、電子と正孔のそれぞれのバレー擬スピン分極緩和を独立して取り扱うことが可能になる。また、発光で検出できないダーク準位のキャリア数も測定できるようになり、バレー擬スピン分極緩和のより統一的な理解が得られると考える。
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Research Products
(6 results)