2017 Fiscal Year Annual Research Report
平成28年熊本地震での杭基礎被害解明と内陸直下地震に対する杭基礎の耐震設計高度化
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17H06837
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
中野 尊治 大阪大学, 工学研究科, 助教 (00805806)
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Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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Keywords | 2016年熊本地震 / 杭基礎建物 / 非線形相互作用 / 地盤調査 / 凝灰質粘性土 / 杭-地盤間の剥離 / 有限要素法 / 質点系モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、平成28年熊本地震で震度7の揺れを2回観測した益城町庁舎について、杭基礎被害の要因を、(1)粘土地盤中の杭基礎構造物の模型振動台実験、(2)詳細モデル(有限要素法=FEM)と簡便モデル(質点系モデル)による実験の再現解析、および(3)益城町庁舎の被害を説明可能な杭-上部構造一体解析モデルの構築、の3つの手順で明らかにし、杭基礎建物の応答評価法の高度化に資することを目的とする。 本年度は(3)の一環として、益城町庁舎の杭を梁要素、上部構造を質点系、杭周地盤抵抗を離散ばね(杭周地盤ばね)で簡易にモデル化し、被害解析を行った。杭への入力動を算出するために、同庁舎近隣の強震観測点であるKiK-net益城地点の地震基盤深さの観測記録と、同庁舎敷地で実施した地盤調査の結果を用いて、同敷地の地盤応答を推定した。また、益城町に堆積する凝灰質粘性土で発生したと考えられる、杭-地盤間の剥離現象をモデル化するために、庁舎の支持杭の杭周地盤抵抗をFEM解析によって調べ、その結果を杭周地盤ばねに取り入れた。さらに、熊本地震の震度7の揺れを2回経験した影響を考慮するために、熊本地震の前震と本震を連続して入力した。以上の工夫により、庁舎1階の解析波形の初動部と応答スペクトルは観測記録と良好に対応し、杭に著しい損傷が発生したことを確認した。解析結果より、表層地盤での地震動増幅、杭-地盤間の剥離、および強震動の連続入力が庁舎の応答に影響を及ぼしたことを明らかにした。ただし、最大加速度発生後の後続部の解析波形は観測記録との間にずれがあり、粘性土や杭周地盤ばねの履歴則の設定に課題が残る。 なお、来年度に(1)、(2)の検討を円滑に行うために、本年度は粘土地盤の作製に用いる装置の製作と模型地盤の試作を行い、実験の手順を確認している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記した内容のうち、(3)については上述の成果を得られ、その一部は日本建築学会構造系論文集(査読あり)への掲載が決まっている。実験については粘土地盤の作製に用いる「圧力容器」と試験体の製作はほぼ終了している。圧力容器による粘土の作製は前例がなく試行錯誤を要する。一方、振動台実験そのものと再現解析については砂地盤での経験があり、比較的障壁は少ないと考えられる。以上の状況を勘案し、本研究は概ね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、模型振動台実験とその再現解析を実施する。実験では、粘土地盤および上部構造の加速度と杭の曲げひずみを密に測定し、数段階の入力加速度を設定することで、地震動のレベルに応じた地盤-構造物連成系の非線形相互作用と杭の応力状態を詳細に把握する。粘土地盤の作製には「圧力容器」と呼ばれる装置を用いるが、同装置による実験の前例がないため実験手順の確立に向けて試行錯誤を要する。実験の再現解析では、実験で直接的に測定できない地盤の塑性変形や杭-地盤間の剥離等の現象が杭基礎建物の応答に及ぼす影響を明らかにする。その成果を質点系モデルに取り入れることで、実験を再現可能な杭周地盤ばね等のモデル化方法を提示する。 上記の検討の集大成として、得られた知見を益城町庁舎の被害解析にフィードバックし、同庁舎1階の観測波形の再現精度を高める。観測記録に追随可能な解析モデルを示すことで、内陸直下地震に対する粘性土中の杭基礎構造物の応答評価法構築につながることが期待できる。
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