2017 Fiscal Year Annual Research Report
VEGF分子の生体イメージングによる腫瘍血管形成機構の解明
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17H06838
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
村松 史隆 大阪大学, 微生物病研究所, 特任研究員 (90803627)
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Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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Keywords | 腫瘍血管 / 血管新生 / 生体イメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は腫瘍血管新生制御に関与する細胞群を生体内にて可視化することで、既存の腫瘍血管形成モデルを再検証することを目的としている。本年度は、(1)各種がん組織における血管形成パターンの評価、(2)腫瘍環境におけるVEGF分子の局在変遷とそれに応答する新生血管の定義、を目指して研究を行った。 (1)神経膠芽腫同所性移植モデル、および肺がん細胞脳転移移植モデルを作製し、長時間の腫瘍増殖と血管新生の観察が可能となる生体イメージングシステムを確立した。その結果、周辺正常血管組織から発芽した新生血管が、固形腫瘍内部の低酸素領域へ侵入することで、腫瘍組織の血管網が供給されるという旧来のモデルとは異なる血管新生パターンが観察された。腫瘍内に存在する血管網の多くは、周辺正常組織からの発芽的新生血管が腫瘍内部へと侵入し獲得されるのではなく、腫瘍組織に内包された血管内皮細胞が、腫瘍細胞の浸潤ベクトルに協調的に連動することで腫瘍組織内を灌流し、周辺正常組織と連結していくことを明らかとし、学会発表を行った。 (2)生体内のVEGFa分子を蛍光標識イメージングするノックインマウス(VEGFテトラシステインタグ標識ノックインマウス)の発色評価を行ったが、まだ生体内VGEF分子を標識する条件は分かっていない。組織免疫染色の結果では、VEGF分子は腫瘍血管の基底膜を構成する4型コラーゲン分子に普遍的に結合することが明らかとなった。またVEGF受容体阻害剤に感受性を示す腫瘍血管領域を生体イメージング解析にて同定した。実際に生きているマウス個体において初めて、VEGFシグナルに依存する血管内皮細胞が腫瘍新生血管の先端に位置することを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
生体イメージングを中心とした腫瘍血管形成モデルの再評価はおおむね順調に進んでいる。 (1)複数のがん細胞種における腫瘍血管新生の生体イメージングを行った。画像解析手法も、血管新生や癌細胞の浸潤方向・速度・分散といったベクトル的な評価を軸とし行えている。神経膠芽腫と肺がんという性質や由来の異なるがん組織において、概念的に通用する血管新生モデルを構築しつつあり、今年度も引き続きリンパ腫や大腸がんなどのモデル化を行い、普遍性を高めたモデルを構築する予定である。 (2)VEGF分子の生体蛍光標識が困難なため、VEGFに支配される腫瘍血管内皮細胞のRNAシークエンス解析やパスウェイ解析などは出来ていない。VEGF受容体阻害剤に感受性の血管内皮細胞は、新生血管のうち全ての先端細胞であることが明らかとなり、十分な血流がある血管内皮細胞は高度な耐性を示すことが分かった。VEGFシグナルの支配化にある内皮細胞領域は明確化されたため、次年度よりその内皮細胞を光変換型蛍光標識などの新たな手法で分画し遺伝子プロファイルを調べる計画方針を立てられた。 一部の研究計画は前年度中に達成できていないものもあるが、各種の実験条件や代替手段の検討により、研究計画の大きな変更なしに引き続き研究を進捗させられる予定である。また、平成30年度に予定している研究計画の一部を前倒しで実施しており、全体の研究計画の進捗状況としては、おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
腫瘍血管を構成する細胞群のうち、ミエロイド細胞、アストロサイト、およびペリサイトの生体イメージング解析を中心に行う予定である。 (3) 腫瘍関連ミエロイド細胞の局在と血管発芽および抗VEGF療法耐性能の検証 CD11b陽性腫瘍関連ミエロイド細胞は、微小腫瘍の初期血管新生や腫瘍血管の抗VEGF療法耐性化に関与すると言われているが、その詳細な機構は不明である。そこで、ミエロイド系細胞が蛍光標識されるLysM-EGFPマウスを用いて、生体イメージング解析を行い、抗VEGF療法感受性の異なる腫瘍血管新生とミエロイド細胞の蓄積との関連の有無を評価する。具体的にはミエロイド細胞の腫瘍内分布量・時間・形態と血管新生方向との相関を評価する。また、抗VEGF療法耐性腫瘍血管領域とミエロイド細胞の距離、分布時間、分布量を検討し、細胞表面マーカーを利用した、組織免疫染色と、FACS解析を通して、腫瘍血管新生に重要なミエロイド系譜細胞の絞りこみを行う。 (4) 血管を構成する細胞の腫瘍血管新生における役割の検証 生体イメージングは中枢神経系における血管新生を中心に行うため、中枢神経系血管(血液―脳関門)を構成する血管内皮細胞、壁細胞、アストロサイトの運動を評価する。具体的には、pdgfRb-cre-ERT2-lox-EGFPマウスを作製し壁細胞を、さらにgfap-cre-lox-EGFPマウスを作製しアストロサイトを蛍光標識する。これらの細胞と腫瘍血管内皮細胞との生体イメージングを行い、腫瘍血管が発芽する際の、各構成細胞の分布変化、分裂、解離、結合を観察し、腫瘍血管に促進あるいは抑制的に作用するのか評価する。さらにこれらの細胞群で被覆された血管が、もともと抗VEGF療法耐性であるのか、あるいは治療後に出現するのかを検討する。
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