2017 Fiscal Year Annual Research Report
マイクロフォンアレイとロボット聴覚を用いた野鳥の歌行動観測と生態理解への試み
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17H06841
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
松林 志保 大阪大学, 工学研究科, 助教 (60804804)
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Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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Keywords | 鳥類モニタリング / マイクロフォンアレイ / ロボット聴覚 / 生物多様性評価 / サウンドスケープ / 歌コミュニケーション / 相互作用 / 外来種ソウシチョウ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、マイクロフォンアレイとロボット聴覚を組み合わせたシステムを用いて、音の到来方向付きの鳥類の歌情報を集積・解析し、サウンドスケープ及びランドスケープ内における個体間の歌を介した相互作用を明らかにすること、さらにその知見を鳥類の生態理解へ応用することを目的とする。 平成29年度の成果は、主として次の2点に集約される。まず第1に、音の伝達状況の異なる森林や草藪など多様な自然環境下で複数のマイクロフォンアレイを用いて録音実験を実施し、各調査地で歌データを集積した。また、複数のマイクロフォンアレイで集音した音情報を統合する方法で2次元平面上における歌の位置情報を推定し、その推定結果を人間が直接観測した鳥の位置情報と比較することで観測対象種の2次元定位の妥当性を検討した。さらに、集音した歌情報を耳で確認しながら手動で分類した結果と自動分類結果を比較することで歌の自動分類精度を検証した。 第2に、歌を介した個体間の相互作用のうち歌のタイミングをずらす重複回避行動に着目し、外来種ソウシチョウと在来周辺鳥種の歌のタイミングから、外来種であるソウシチョウが在来種の歌行動に及ぼす影響の評価を試みた。主に3月から6月にかけての繁殖期に豊田市稲武および四條畷市の森林で集音した音データをもとにした予備的解析結果からは、ソウシチョウが生息環境を共有し、かつ同じような周波数帯の歌を持つ周辺在来種の歌行動に影響を及ぼしている可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究業績の概要で述べた2つの点に触れつつ、それぞれの進捗状況を以下にまとめる。第1に、研究計画通り各調査地の多様な自然環境下で繁殖期の歌データを集積し、自動定位・分離・分類精度の検証を通して当該システムのフィールドでの実用可能性を検討した。録音に関する技術的な進展としては、マイクロフォンアレイに超小型パソコンを接続する新規システムを用いることで、従来システムで生じていた長時間録音による音飛びなどの問題解決につながった。音の分類に関しては、集積した歌データに含まれる各種の歌の特徴量を抽出する新規の簡易分類機能の開発がすすんだため、解析効率の向上につながることが見込まれる。 第2に、外来種ソウシチョウと周辺在来種の歌空間をめぐる相互作用に関する課題に関しては、従来の調査地である豊田市稲武町と四條畷市の森林で継続調査が進行中でありデータを集積中である。さらに今期は、観測対象種を直接捕獲して抱卵班の有無などを調べるバンディング調査結果から、各鳥種の繁殖期を確認するなど鳥種間が歌を介して行う縄張り争いに関する分析手法の洗練を検討しはじめた。 研究対象が予測の難しい自然であるため、当初予定していた観測対象鳥種とは相違が生じていること、また研究に必須な機材(3次元の音情報を集音する16チャネルマイクロフォンアレイ)の長期録音に関する機能上の不具合が生じたこと、そして音の3次元定位に必要な情報が不足しているため、3次元の定位に関する研究課題については遅れが生じているものの、上記のように全体としておおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの進捗状況で述べた2つの点にふれつつ、以下今後の研究推進方法について述べる。まず第1に、自動定位・分離・分類機能を含む当該システムのフィールドでの実用可能性を検討した結果を踏まえ、本年度各調査地でいよいよ本格的な集音を実施する。本調査実施に関しては、マイクロフォンアレイに超小型パソコンを接続する新規システムを用いること、マイクロフォンアレイの数自体を増やすことでより長時間・広域の録音を実現する予定である。また集音した音データ解析の際には、新規の簡易分類機能を用いることで解析効率の向上をはかる。 第2に、外来種ソウシチョウの周辺在来種への歌行動の影響の評価に関しては、現地で鳥類を直接捕獲し抱卵班の有無などを記録するバンディング実施者と連携し、各種の繁殖期間の確認を実施するなど、各鳥種間の歌による空間的な縄張り争い、そして歌空間をめぐる争いに関する分析手法を洗練する。 現在進行中の調査を継続し、各分野の専門家からのフィードバックを基に論文化につなげる。また、現在開発中のマイクアレイのフィールド評価、および自動定位・分離、分類の各機能へのフィードバックを行う。さらに鳥類学会や講習会で、研究者、環境調査の実務者、政策者、一般バードウオッチャーを対象としたアウトリーチ活動を行う。
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Research Products
(6 results)