2017 Fiscal Year Annual Research Report
バイオファウリングを抑制するクォーラムセンシング阻害剤徐放型逆浸透膜の新規開発
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17H06861
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
稲田 飛鳥 神戸大学, 工学研究科, 学術研究員 (10803835)
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Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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Keywords | クォーラムセンシング / バイオフィルム / 徐放 / マイクロビーズ / 逆浸透膜 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、バイオフィルム形成を抑制するクォーラムセンシンング(QS)阻害剤を膜表面に導入し、ドラッグデリバリーシステム(DDS)を応用した薬剤徐放能を有する新規RO膜の開発を行うため、まず初めにQS阻害剤によるバイオフィルム形成阻害活性に関する基礎的検討を行った。QS阻害剤としては、バニリン、シンナムラルデヒド、レスベラトロール、エラグ酸、ベンゾキノン類を対象として、バイオフィルムの形成阻害活性の有無を調査した。一定面積に切り取った逆浸透膜を浮遊させた液体培地にSphingomonas paucimobilis NBRC133935を培養し、各溶液に所定濃度のQS阻害剤を添加し、一定時間振とう後、溶液の濁度測定、および膜面を共焦点レーザー顕微鏡で観察することにより、バイオフィルムの形成阻害活性を評価した。濁度測定の結果、試験した全てのQS阻害剤で微生物の増殖抑制が確認された。また、共焦点レーザー顕微鏡の観察においてもバイオフィルムの形成が抑制されていることが確認された。 続いて、徐放キャリアとしてはシクロデキストリン、およびマイクロビーズの2通りを検討した。QS阻害剤としてベンゾキノン類を用いたところ、シクロデキストリンについては、α型、β型、γ型、メチル-β型のうち、メチル-β型の包接能が最も高かった。しかしながら、用いたベンゾキノン類の疎水性度が低く、結合定数がいずれにおいても低いため、マイクロビーズの検討に移った。 ポリ(ラクチド-co-グリコリド)共重合体(PLGA)とベンゾキノン類のマイクロビーズを調製した。マイクロビーズ調製時の薬剤仕込み量が一定の場合、PLGAの種類が異なる条件でも封入効率および含有率は変化しないことが分かった。また、PLGAの分子量が大きくなるにつれ徐放速度は低下することが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、バイオフィルム形成を抑制するクォーラムセンシンング(QS)阻害剤の探索し、ドラッグデリバリーシステム(DDS)を応用した薬剤徐放キャリアの検討・評価まで行うことができた。これらの研究成果は当初計画の期待通りのものであると判断する。本年度の受理論文は0であったが、1報の学術論文を投稿準備中であることから次年度はこれまでの研究成果の発表が期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、QS阻害剤徐放型RO膜を製膜し、徐放能の評価および再充填化の検討を行う。ポリスルホン製の限外濾過(UF)膜を支持体としてジアミン溶液を含侵させ、ヘキサンに溶解した酸クロライド溶液との界面重合反応を利用してRO膜を調製する。その後、QS阻害剤を封入した徐放キャリア複合体を膜表面にコーティングする。コーティング方法としては、複合体の懸濁液中にRO膜を浸し、ディップ方式やスプレー方式を試みる。また、調製したRO膜の徐放能を評価し、膜表面の徐放キャリアの再充填を試みる。徐放キャリアからのQS阻害剤が放出された後、再度、簡易的なディップ方式によるコーティングを行い、繰り返し溶出試験を行う。これによって徐放能の再活性の可能性を検討する。RO膜の表面に徐放キャリアを導入し、その徐放機能を評価する。また、徐放キャリア内の薬剤放出後に、再度充填する方法の検討も行う。 次に、従来のバイオファウリング対策との比較を行うことでバイオファウリング耐性を評価し、膜特性に関しては、膜厚、断面形状、膜の孔径、膜の分離能を評価する。膜表面構造、および分離膜として重要な膜の孔径、多孔構造は、光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて評価する。分離膜としての膜性能は、透水性能、分離性能、バイオファウリング耐性の観点から評価する。バイオファウリング耐性については、あらかじめ微生物を膜面に付着させておき、微生物が増殖する条件での透水試験を行い、透水性能低下率で評価する。バイオファウリング耐性を評価し、その結果を徐放キャリアの検討やRO膜の製膜にフィードバックし、膜性能やバイオファウリング耐性の改良を行い、最適化する。
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