2017 Fiscal Year Annual Research Report
ヌタウナギの体液ホメオスタシス:体液調節能力はどこから来たか?
Project/Area Number |
17H06876
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
山口 陽子 島根大学, 生物資源科学部, 特任助教 (70801827)
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Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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Keywords | ヌタウナギ / 円口類 / 飼育実験 / RNA-Seq / 体液調節 / 内分泌系 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、脊椎動物の体液調節能力の進化的起源を解明することを目指し、現生脊椎動物で最も早く分岐した円口類ヌタウナギの体液調節能力を検証している。硬骨魚真骨類では鰓や腎臓が体液調節に働き、これら器官は内分泌系に支配されている。ヌタウナギも鰓や腎臓を持つが、無脊椎動物と同じ体液順応型である。ヌタウナギの鰓や腎臓の機能、特に体液調節への関与と、これら器官を制御する内分泌系の存在について、in vivo飼育実験と大規模遺伝子発現解析を組み合わせて検証する。29年度はヌタウナギ飼育環境の整備と標的組織におけるRNA-Seqを実施した。 1. 隠岐から輸送した11匹のヌタウナギを7ヶ月間にわたり長期飼育することに成功した。期間中に一部個体が産卵し、飼育環境が良好であることが示唆された。この成果により、30年度に計画している塩分環境移行実験が予定通り実現可能な見通しとなった。 2. 脳下垂体、鰓、腎臓を含む6組織についてRNA-Seqを実施し、網羅的な遺伝子発現プロファイルを得た。国立遺伝学研究所スーパーコンピューターシステムとラップトップPCを用いた一連のデータ解析作業フローを確立した。トランスクリプトームのde novoアセンブリとアノテーションを行い、得られたアセンブルデータをレファレンスとして、リードマッピングと各転写産物の定量を完了した。これらの結果をもとに、30年度個別解析対象遺伝子(各組織で発現する主要なイオンチャネルや各種輸送体、ホルモン分子とその受容体)の選定を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定の通り、ヌタウナギの飼育実験系を立ち上げ、7ヶ月間にわたって安定的に飼育することが出来た。30年度に実施する塩分環境移行実験では、輸送後の馴致期間も含めて最長3ヶ月程度を見込んでおり、今回確立した飼育系で十分実行可能と考えられる。ヌタウナギが容易に入手できる島根県の地の利に加え、研究室内で生体を維持する環境が整ったことは、本研究のみならず、申請者が今後ヌタウナギ研究を推進していく上で礎となる重要な成果である。 RNA-Seqについて、当初は島根大学共通機器のIllumina MiSeqを使用する予定だったが、求めるデータ量と品質、ならびに費用を考慮した結果、Illumina NovaSeq 6000によるRNA-Seqを外注した(費目は「その他」として計上)。これにより費用が大幅に抑えられたため、当初予定していた脳下垂体、鰓、腎臓に加え、脳、肝臓、筋肉についてもRNA-Seqを実施した。脳は脊椎動物の内分泌系における最上位器官であり、肝臓と筋肉はアミノ酸など窒素化合物の代謝に関与する。先行研究では、ヌタウナギの細胞内液に窒素化合物が多く含まれ、浸透圧調節物質として機能することが示唆されている。脳、肝臓、筋肉を解析対象に含めることで、ヌタウナギの体液調節機構をより総合的に検証することができる。各組織のトランスクリプトームから個別解析対象遺伝子を抽出する作業は現在進行中だが、近日中に完了予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画にしたがって研究を進める。下記2および4では脳下垂体、鰓、腎臓を優先するが、RNA-Seqデータ解析の結果と進捗状況によっては、脳、肝臓、筋肉での解析も行う。 1. 各組織のトランスクリプトームから個別解析対象遺伝子を選定する。 2. 1で選定した個別解析対象遺伝子について、各組織における局在をin situ hybridizationで確認する。 3. ヌタウナギを低/高塩分環境に移行し、血液パラメータを測定して体液調節能力を評価する。 4. 1で選定した個別解析対象遺伝子について、上記塩分環境移行実験に伴う発現変動をqRT-PCRで解析する。
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