2017 Fiscal Year Annual Research Report
日本列島の森林のなりたちにおける隠岐諸島の位置づけ
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17H06877
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
須貝 杏子 島根大学, 生物資源科学部, 特任助教 (20801848)
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Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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Keywords | 隠岐諸島 / 遺伝的多様性 / 遺伝的地域性 / 遺伝子流動 / レフュジア |
Outline of Annual Research Achievements |
隠岐諸島は島根半島の北方約50 kmに位置するが、約2万年前の最終氷期には島根半島と陸続きとなっていた。その後、後氷期になると再び切り離され、現在のような島嶼環境になった。日本列島の森林の成立・維持の過程において隠岐諸島が果たしてきた役割を明らかにすることを目的として、起源の古い被子植物であるカツラを用いて分子系統地理学的な調査を行った。カツラは渓畔林に代表的な樹種であり、隠岐諸島では島後(隠岐の島町)を中心に生育している。島後の林道沿いを中心に、カツラの集団サンプリングを行った。5遺伝子座のマイクロサテライトマーカーの遺伝子型と葉緑体DNAの4つの非コード領域の塩基配列を決定し、遺伝的多様性と遺伝構造を調べた。その結果、隠岐諸島の集団は日本の他地域と同程度の遺伝的多様性を有し、葉緑体DNAの塩基配列は西日本の他の集団と共通していた。ただし、西日本の他の集団とは塩基置換は見られなかったものの1領域で1塩基反復の繰り返し数の違いが2ヶ所で見つかった。もし、隠岐諸島が過去にレフュジアとして機能していた場合には、他地域の集団と比較して遺伝的多様性が高いことが予想された。今年度の調査では、遺伝的多様性が高いなど隠岐諸島が氷期にレフュジアとなっていた痕跡は、カツラにおいて認められなかった。しかし、隠岐諸島と西日本の他の集団で1塩基反復の繰り返し数の違いが見つかり、現在島嶼域で隔離されていることにより固有性が形成された可能性が考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
隠岐諸島での調査を開始し、カツラではDNAサンプルの採集を完了した。また別の樹種についても順調に採集を進められ、現在個体数が不足している樹種については、2018年度に追加の調査を行い、採集できる見込みである。採取サンプルについては、順次DNA解析を開始している。また、2018年度に遺伝子流動を明らかにするため、その調査区の選定も行うことができた。したがって、本研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
カツラ以外の樹種について、サンプル採取・DNA解析を行い、隠岐諸島の集団の遺伝学的背景について、先行研究の他集団との比較により明らかにする予定である。また、遺伝子流動については、島後に設定した調査区内で成木からのDNAサンプルの採取と、シードトラップを設置し、親子解析用の種子を回収する予定である。
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