2017 Fiscal Year Annual Research Report
Study of tau-neutrino production using state-of-the-art emulsion detectors
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17H06926
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
有賀 智子 (古川) 九州大学, 基幹教育院, 助教 (00802208)
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Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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Keywords | タウニュートリノ / Ds中間子 / ニュートリノ反応 / エマルション検出器 |
Outline of Annual Research Achievements |
3世代あるニュートリノの中でもタウニュートリノは、その検出の技術的困難さから、これまでの実験データが少なく、その基本的性質である反応断面積の測定も不定性が非常に大きい。タウニュートリノ反応断面積を精密に測定することは、ニュートリノ振動実験や宇宙からのタウニュートリノ観測のための基礎データになるとともに、タウニュートリノ-原子核反応において標準理論を超える物理があるかどうかを探索する試みである。タウニュートリノ反応断面積測定は、高エネルギー陽子反応で生成されるタウニュートリノフラックスの推定と、タウニュートリノ反応の検出から成る。ここで、タウニュートリノの生成源であるDs中間子の微分生成断面積が陽子ビームを用いた固定標的実験では測定されていないことが、反応断面積測定において最大の不定性(~50%)になっており、タウニュートリノ生成についての研究が不可欠である。本研究では、タウニュートリノビーム生成の不定性を減らすため、生成源であるDs中間子の微分生成断面積を400 GeV陽子ビームに対して初めて測定する。Ds中間子の検出方法として、数mradという微小な折れ曲がりを特徴とするDs中間子のタウへの崩壊を捉えるため、50 nmという高い3次元位置精度を持つエマルション検出器を用いる。CERN SPS加速器の400 GeV陽子ビームを用いて研究を遂行するため、2016-2017年に実施したビームテストの解析を進めてそれを基に実験プロポーザルを執筆し、2017年8月にSPSCに提出した。2018年1月のSPSCによる審査にて、2018年8月の陽子ビーム照射(パイロットラン)の承認と2021年のビームタイム確保の推奨を受け、2021年の本実験実施への見通しをつけた。現在は、パイロットランに向けた検出器の準備、および、ビームテストのデータを用いた解析フレームワークの構築に取り組んでいる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2017年8月に実験プロポーザルをCERN SPSCに提出し、2018年1月のSPSCによる審査にて、2018年8月の陽子ビーム照射(パイロットラン)の承認と2021年のビームタイム確保の推奨という前向きな評価を得た。2018年8月のパイロットランに向けて検出器を製造・照射・現像する計画を立て、以下のように進めている。パイロットランのために製造するエマルションフィルム量は総面積48 m^2 (3900枚) を予定しており、2018年2月にそのためのフィルムベースの下処理を完了した。現在、5-8月のエマルションフィルム製造、8月末の陽子ビーム照射、9月のエマルションフィルム現像に向けた準備を行っている。並行して、従来のエマルション実験に対して2桁以上多い事象数となる10^8陽子反応の精密解析に向けた自動解析スキームの構築に取り組んでいる。2017年までに実施したビームテストにて陽子ビームを照射したフィルムの飛跡の読み出しを進め、従来より小角度空間に集中した高い飛跡密度 (10 mrad以内に集中した10^5 tracks/cm^2) に対応できる飛跡認識を開発して、解析を進めている。400 GeV陽子反応を再構成し粒子の崩壊トポロジーを選び出す解析フレームワークの構築とその評価に取り組んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年8月末の陽子ビーム照射(パイロットラン)のため、2018年5-8月に名古屋大学およびベルン大学のエマルションフィルム製造施設を活用し、総面積48 m^2 (3900枚) のフィルムを製造する。CERNにて陽子ビーム照射前に検出器を組み立て、照射を実施し、解体後ベルン大学にてフィルムの現像処理を行う。また、自動解析スキームを構築し、パイロットランの解析を遂行する。このランでは、タウニュートリノを生成するシグナル事象を約80事象検出することを見込んでおり、限られた統計ではあるがDs中間子の微分生成断面積を400 GeV陽子ビームに対して初めて測定する。過去のDONUT実験のデータと組み合わせてタウニュートリノ反応断面積測定の (系統的不確かさを減らした) 再評価を行ってその物理結果を公表し、2021年の本実験承認につなげたいと考えている。また、主目的とするタウニュートリノ生成の研究の他にも、実験の副産物として高統計でチャーム粒子を含む事象を検出できることから、現在の知見を超える測定を行えるよう検討を進める。さらに、2021年の物理ランに向けて検出器および解析の課題を見極め、改良を進めていく。物理ランでは、タウニュートリノビーム生成の不定性を現在の50%相当から10%以下に減らし、将来的にタウニュートリノ-原子核反応における新物理の効果(標準理論に対して10%程度)を探索することを目指している。
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