2017 Fiscal Year Annual Research Report
東南アジアにおける領域大気モデルの統合的感度解析を通した最適化及び精度の検証
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17H06966
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
石田 桂 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 助教 (70800697)
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Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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Keywords | 力学的ダウンスケーリング / 東南アジア / 感度解析 / 降水量 / 初期条件 / ナッジング / パラメタリゼーション |
Outline of Annual Research Achievements |
近年,将来気候予測データに対して力学的ダウンスケーリングを行い,得られた高解像度の出力を活用した研究が水文分野を含め幅広く行われている.しかし一方で,降水量に関して力学的ダウンスケーリングに用いられる領域大気モデルの精度が一部の地域を除き十分に検証されているとは言えない.まず,領域大気モデルの精度の検証は多くの場合降水イベント毎に行われており,気候変化の研究に必要な長期間における検証はあまり行われていない.また,事前に十分なモデルの最適化が行われないまま,精度の検証が行われている,特に東南アジアなどの途上国においては精度の検証に関する研究は相対的に少なく,信頼できる精度も得られていない.そこで,本研究では東南アジアの地域を対象に統合的な感度解析を通して領域大気モデルの最適化を行い,降水量に関する精度の向上を図ることを目的とする.そして,初年度はまず初期条件とナッジングに関する感度解析を行った.中緯度地域では領域大気モデルの計算に対して初期条件の影響が長期間に及ばなく,長期間の計算では境界値問題となることが知られている.しかし,本研究において行った感度解析により,低緯度地域にある対象地(タイ王国)では長期間にわたり初期条件が影響する.一方で,初期条件の影響は主に降水時の量に影響し,タイミングへの影響は少ない.また,ナッジングによりその影響が抑えられることが明らかになった.この結果により,今後行う予定のパラメタリゼーションや計算境域の解像度などに対する感度解析により,高精度な結果を得られる可能性が示された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
力学的ダウンスケーリングの準備として,スーパーコンピュータのアカウントを取得し,スーパーコンピュータ上で領域大気モデルであるWeather Research and Forecasting Model(WRF)のセットアップを行い,対象地を覆うようにWRFのネストした計算領域を準備した.同時に,力学的ダウンスケーリングの初期・境界条件に用いる再解析データ(ERA Interim)を提供元のデータサーバーからダウンロードし,WRF用の初期・境界条件データに変換後,スーパーコンピュータにアップロードした.一年半の研究期間において,(i)初期条件,(ii) ナッジング,(iii) パラメタリゼーション,(v)計算領域の解像度,及びこれらを組み合わせた感度解析を行う予定である.初年度ではこのうち(i)初期条件,(ii) ナッジング及びこれらを組み合わせた感度解析を行い,(iii) パラメタリゼーションの感度解析を部分的に行った.研究期間は初年度が半年,次年度が一年であることを考慮すると,研究の進捗も3分の1を超えており,研究進度は順調である.
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Strategy for Future Research Activity |
初年度は東南アジアの対象地に対し,力学的ダウンスケーリングにおける初期条件及びナッジングの影響を評価した.今後は,初年度で得られた知見をもとに,パラメタリゼーション及び計算領域の解像度に関する感度解析を順次実行する.パラメタリゼーションオプションとして,本研究では雲微物理過程,積雲過程,地表面過程,短波・長波放射過程,惑星境界層過程に注目する.感度解析の組合せ数を抑えるため,選定した各過程のスキームを以後の感度解析にも用いる.初年度で得られた結果から,まずナッジングを用いずにパラメタリゼーションに関する感度解析を行う.観測データとの比較で十分な精度が得られない場合は,ナッジングを加えた上でパラメタリゼーションに関し感度解析を行う.観測データと比較しうるだけの精度が得られていない状況で,計算領域の解像度に関する感度解析により精度の向上は難しいため,計算領域の解像度に関する感度解析はパラメタリゼーションに関する感度解析の後に行う.ただし,計算領域の解像度に対する計算結果の感度が高い場合は,幾つかの解像度に関し,各解像度の計算領域に対し再度パラメタリゼーションに関する感度解析を行う.その後,力学的ダウンスケーリングの東南アジア地域における適用可能性を議論する.
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