2017 Fiscal Year Annual Research Report
共生メタン菌を環境中から獲得する嫌気性繊毛虫:共生系確立の分子基盤を解明する
Project/Area Number |
17H06979
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
竹下 和貴 琉球大学, 熱帯生物圏研究センター, ポスドク研究員 (40799194)
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Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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Keywords | 細胞内共生 / 原生生物 / 繊毛虫 / メタン菌 / 嫌気 |
Outline of Annual Research Achievements |
嫌気性環境に生息する自由生活性の繊毛虫(単細胞真核生物)の一部は、代謝により発生する水素を消費してメタン生成を行うメタン菌(古細菌)と機能未知のバクテリア(真正細菌)を細胞内に共生させている。生物界ドメインの異なる3者間共生という興味深い研究対象にも関わらず、嫌気性繊毛虫を実験室内で安定的に培養することが困難であるため、この細胞内共生の詳細な研究はこれまでほとんど行われていない。本研究では、嫌気性繊毛虫のうち、安定的に長期培養に成功しているトリミエマ属の原生生物を対象に、この興味深い細胞内3者間共生の分子基盤へ実験的にアプローチ可能なモデル共生系を立ち上げることを目指している。 今年度は、共生メタン菌の再獲得実験系の構築、摂食RNAi法によるトリミエマの遺伝子発現抑制実験系の構築、と2つの新規実験系の立ち上げを主に行った。共生メタン菌の再獲得実験系に関しては、薬剤処理により共生メタン菌を欠落させたトリミエマ系統の作製を試みたが、継代するにつれ細胞数が減少してしまい、安定したメタン菌欠落系統の樹立には至らなかった。また、共生メタン菌の単離培養も成功していない。摂食RNAi法に関しては、ゾウリムシで致死性を示す遺伝子を当面のターゲットとし、トリミエマのトランスクリプトームデータよりオルソログの同定、同定したオルソログ遺伝子の部分配列をdsRNAとして発現するエサ大腸菌株の作製に成功した。現在、トリミエマへの摂食条件の検討を行なっている。 一方で、トリミエマとは系統的に異なる嫌気性繊毛虫の培養株、GW7株の共生微生物の同定を試みた結果、GW7株はトリミエマとは異なる共生メタン菌、共生バクテリアを細胞内に保持していることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
共生メタン菌の再獲得実験系の構築、摂食RNAi法によるトリミエマ原虫の遺伝子発現抑制実験系の構築、と2つの新規実験系の立ち上げに注力したが、いずれも平成29年度中の完成には至らなかったため。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、まず、摂食RNAi法によるトリミエマの遺伝子発現抑制実験系を完成させることに注力する。現在、致死性遺伝子を対象に摂食条件の検討を行なっているが、終わり次第、表現型の観察およびRT-qPCR法により遺伝子発現抑制効果を確認する予定である。 共生メタン菌の再獲得実験に関しては、前年度成功に至らなかったトリミエマのメタン菌欠落系統の作製およびトリミエマからの共生メタン菌の単離培養は断念する。代わりに、メタン菌が欠落した状態で長年安定的に培養されている別の培養株および購入したメタン菌株(共生メタン菌と同属で近縁な株)を用いて、メタン菌再獲得実験系の完成を目指す。 両実験系が完成した後は、摂食RNAi実験とメタン菌再獲得実験を組み合わせて行うことで、先行研究で関与が示唆されているターゲット遺伝子(食胞および膜輸送系関連遺伝子)のメタン菌再獲得における関連性および機能を実験的に検証する予定である。 前年度までに共生微生物の同定に成功した嫌気性繊毛虫の培養株GW7株は、トリミエマとは系統的に大きく異なるものの、トリミエマとの比較に用いることができることから、3者間共生系を理解し一般化する上で非常に有用であると考えている。よって、本年度中にこのGW7株における3者間共生系の記載論文を発表することを目指す。
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Research Products
(2 results)