2017 Fiscal Year Annual Research Report
認知症の医療社会学的研究――介護者たちの規範はいかに変化したか?
Project/Area Number |
17H07019
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
木下 衆 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 研究員 (00805533)
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Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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Keywords | 認知症 / 家族介護 / 医療社会学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、認知症介護における規範がどのような歴史的変化を辿ったのかを、特に1970年代から90年代の介護家族の実践に注目して明らかにすることである。 本年度は特に、1988年から2008年ごろまで活動した「日本ホスピス・ホームケア協会」(以降、「協会」と表記)の活動について、重点的に調査を行った。協会は大阪を拠点に活動した組織で、初代代表の黒田輝政氏(故人)のもと、認知症患者の在宅での看取りを支援すべく、ヘルパー派遣事業などを行っていた。協会が特徴的なのは、80年代末の段階で、患者の生活史(ライフヒストリー)や家族関係の聞き取りを重視し、それをケアに反映していたことだ。患者のライフヒストリーに基づき、一人ひとりの「その人らしさ」を尊重することを目指す介護は、特に2000年代以降主流化したとされるが、協会はその先駆的な例と位置付けられる。実際、協会は1998年の特定非営利活動促進法施行後、いち早くNPO法人格を取得している。しかし、協会に関する調査や研究は十分に行われておらず、資料なども散逸した状態にあった。 そこで本年度は、主に二つの調査を実施した。第一に、関係者へのインタビュー調査である。調査には、協会で事務局長を務めたA氏、ケアマネジャーとなったB氏、そして協会のサービスを利用して妻を看取ったC氏から協力を得た。第二に、文書資料の収集と分析である。本年度は、A氏・B氏が保管していた会の手引きや、独自に発行していた研究誌などの提供を受けた。また両氏とC氏に許可を受け、C氏の妻を看取るまでの協会との会議記録などの提供も受けた。 いずれも、日本の認知症ケアの理念が転換し、「どのように患者を介護すべきか」を巡る新しい理念が形成されていく過程を研究する上で、貴重な調査となった。 なお以上の調査に加え、これまでに行ってきた介護施設や家族会での調査も発展させることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に記した通り、本年度は「日本ホスピス・ホームケア協会」(以降、「協会」と表記)の活動について、関係者へのインタビュー調査と、文書資料の収集と分析を、特に重点的に行った。こうした調査は事前に計画していた通りだったが、データの量と内容の面で、いずれも事前の計画を上回る成果を得られた。 調査はまず、文書資料の収集から行った。協会が発行していた研究誌は、会の解散後散逸していたが、A氏・B氏・C氏から協力を得て、2000年代以降のものをまずは収集することができた。その後、三氏が個人的に保管していた資料などの提供を受け、合計500ページを超える資料を分析することができた。当初は300ページ台の資料が閲覧できると想定していたが、それ以上の資料を分析することができた。 そうした文書資料の分析も踏まえ、本年度は三氏へのインタビュー調査を実施した。インタビューは、A氏・C氏、B氏・C氏の組み合わせで行った。事前に文書資料の分析を行っていたこともあり、会の理念や活動の特徴、また活動で生じた困難について、論点を整理した上で聞き取りを行うことができた。またインタビューだけではなく、メールなどでも連絡を取り合い、補足的な調査も行っている。 このように本年度の調査は、文書資料の収集とインタビューを組み合わせ、より多くの成果をあげることができた。例えば文書で分からなかった箇所をインタビューで質問する、あるいはインタビューで不明だった点を後日別な資料で補足いただくなど、三氏の全面的な協力の下、極めて順調に調査は進行している。 なお、データのプライバシー保護に関しては、三氏をはじめ関係者と打ち合わせを経て、十分に配慮を行っている。例えばB氏提供の資料では、関係のない個人名を事前に黒塗りにしていただくなど、協力を得られた。電子化されたデータに関しても、パスワードをかけて保管するなど、注意を払っている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究計画は基本的に、「日本ホスピス・ホームケア協会」(以降、「協会」と表記)の活動についての、関係者へのインタビュー調査と文書資料の収集と分析を、さらに発展させるものとなる。 まずインタビュー調査について。2018年度はすでに、協会でヘルパーを務めていたD氏に、調査の了解を得ている(現在、日程を調整中)。こうして新たな調査協力者を募ると同時に、すでにインタビューを行ったA氏ら三氏への追加調査も計画している。 また文書資料については、2017年度に提供を受けたものの、まだ精査が終わっていない内容について、まずは分析を進める。追加の資料提供を受ける可能性もあるため、作業を急ぎたい。 また2018年度は、本年度得られた研究成果の発表に努力したい。すでに、7月にトロントで開催されるISA(国際社会学会)の国際会議での報告を予定している。その他にも、国内の専門誌へ複数の論文を投稿することを計画している。 なお調査で得られたデータを発表する際の形式に関しては、すでに調査協力者と打ち合わせを重ねている。プライバシー保護に留意しつつ、計画を進めていきたい。
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