2017 Fiscal Year Annual Research Report
北米の教育判例と教育政策論争に対する「教育の政治哲学」的考察
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17H07062
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Research Institution | Surugadai University |
Principal Investigator |
鵜海 未祐子 駿河台大学, 現代文化学部, 講師 (30802235)
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Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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Keywords | 教育の政治哲学 / 道徳的不一致の調整 / 熟議デモクラシー / 公教育と宗教 / LGBTQ2 / エイミー・ガットマン / ジョン・デューイ / 教育機会の平等 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、北米の教育判例と教育政策論争に対する「教育の政治哲学」的考察を進めるものである。その目的は、近年の教育政策形成や決定における、熟議の導入を視野に入れて、市民間における政策論争の活性化に資する民主的な解釈を、教育の不正義と理解できる各事例に即して提供することである。研究の全体構想は、次のようになる。教育政策の形成や決定過程において、今後ますます先鋭化すると思われる諸価値の対立や葛藤が如何に調整されうるのかに関する考察の展開である。第1に、本研究に典型される政策論争の民主的な交通整理といえる解釈の提供である。第2に、第1を通じて、道徳的な不一致の調整を図る方法論としての熟議デモクラシー理論の可能性と課題の検討である。第3に、政策熟議を促す諸原理の体系化である。第1と第2の研究が基盤となり第3の研究が最終的に実現される構造となっている。 平成29年度は、カナダの教育判例や政策論争に関する文献・現地調査の2本立て研究を進めた。文献調査として、公立・私立学校における「倫理や宗教文化の中立的な教授」の必修科目化をめぐり争われた、S. L. 判決とロヨラ判決に関して「教育の政治哲学的な検討」を加えた。その結果、「公共的価値」と「信教の自由」の調整において、より踏み込んだ「相互性」の具体化が明らかとなった。その間、デューイとガットマンの政策思想としての意義を考察した。現地調査として、アルバータ州カルガリーにおいてLGBTQ2教育政策の実態解明に焦点をあてた。LGBTQ2の権利保障をめぐっては、特にカトリック系公立学校における政策論理の矛盾と、そこから派生する諸問題が存在していること、無宗派系公立学校における、LGBTQ2に対して特別視せず包摂する方針が着々と実現している動向が確認できた。これを公教育と宗教をめぐる諸価値の対立調整として、深く意味づけてゆくことが今後の課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、文献研究と現地調査研究の両面で研究は進められている。文献研究の過程では、本研究の目的を遂行するうえで示唆に富む新たな思想に触れ分析を進めることができた。その研究成果を、学際的な関連学会・研究会で発表することにより、多様な側面からの意見交換やご助言を賜わることができた。また、熟議デモクラシーを念頭においた政策論理について考察を加え、論文として形にまとめることができた。 現地調査研究の過程では、現地の大学でLGBTQ2教育政策と宗教の問題をご専門にされている研究者にインタビューを進める中で、実態分析をお聞きし、次につながる新しい手がかりや視点を賜ることができた。加えて、カルガリー教育委員会で、ミーティングに参加させていただき、LGBTQ2に関わるミッションステートメントの修正に立ち会うことができた。さらには、LGBTQ2政策に積極的に関わっている、教育委員と政策評価チームにインタビューをさせていただく中で、同政策をめぐる価値調整がどのように図られてきたのか、教育委員会の立ち位置はどこに置かれるのか、LGBTQ2政策の今後の方向性について等々、新しい情報を賜ることができた。このようにインタビューを通して複数の立場の声をお聞きできたことは、本研究の客観性をたかめることにつながった。 以上により、文献研究と現地調査研究ともに、同時並行で相補的に進めていることから、本研究課題の進捗状況について、おおむね順調に進展しているものと判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の課題を今後に推進するにあたり、本年度も文献研究と現地調査研究の2本柱で進める。文献研究に関しては、北米の他の教育判例の政治哲学的考察を進めるにあたり、より多くの政治哲学者や教育学者による議論の比較検討を行う。また理論研究として、特にエイミー・ガットマンの熟議デモクラシー論を他の(熟議を含む)デモクラシー論全体の中で相対化することによって、その教育政策に対する論理的な意義と課題の論証を試みる予定である。 現地調査研究に関しては、前年度の現地調査で得た新たな手がかりをもとに、本年度も引きつづき現地調査を行う予定である。LGBTQ2権利保障に関わる先駆的事例に注目し、学校訪問を含めた各関係者にインタビューを進める予定である。そのことを通じて、LGBTQ2施策の可能性と課題について多角的な考察を加える。 いずれの研究成果も、とくに学会・研究会報告と論文投稿という形で、公に発信する。その際に、多様な研究者との積極的な交流を深め、ご専門の研究者からも引き続きご助言を賜りながら、同時並行的に本研究課題の遂行に取組んでゆく。
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Research Products
(3 results)