2017 Fiscal Year Annual Research Report
Aβ産生抑制を規定するコレステロール引き抜き経路の同定
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17H07095
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
矢野 康次 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 博士研究員 (40802955)
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Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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Keywords | アルツハイマー病 / iPS細胞 / コレステロール代謝 / カルシウム代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度研究計画の第一目標として、iPS細胞の成熟神経細胞への分化誘導とその解析を行った。健常者由来コントロールiPS細胞は前脳および中脳領域それぞれの神経細胞へ分化させることが確認できた。さらに、アルツハイマー病の病因遺伝子として重要なプレセナリン(PS1)遺伝子異常を持つiPS細胞を同様に神経細胞へ分化誘導を行い、前脳と中脳神経細胞へ分化することを確認した。しかしながら、前脳は中脳と比較して著しく分化効率が低かった。そのため、十分な量の細胞数を得ることが難しく、細胞小器官ごとの蛋白発現量の比較などは非常に困難であり、更なる検討が必要であると思われる。現在、前脳細胞への分化効率を上げるべく、検討を行っている。前脳細胞への分化効率を改善することが可能となれば、神経細胞の細胞生物学的観点から非常に有益な情報になることが期待できる。 これらiPS細胞由来神経細胞を用いて、細胞内コレステロール代謝に関する解析を行った。まず、iPS細胞由来神経細胞は定常状態において細胞内に十分なコレステロールを含んでいない可能性が示唆された。これは、定常状態の神経細胞をFilipin (コレステロールを特異的に標識する蛍光色素) により染色した結果に基づいている。培養液中に、コレステロールを供給可能なリポタンパク等を含まないことがその一要因であること考えられる。そのため、当初の計画であったサイクロデキストリンにより細胞内コレステロール量を減少させることをより定量的に評価することが困難であった。そこで、サイクロデキストリン-コレステロール複合体を細胞に添加することで細胞内コレステロール量を増加させた。30分間のインキュベーションにより優位に細胞内コレステロール量の増加を認めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度計画の目標である「1.成熟神経細胞への分化誘導と解析」については、概ね順調に進行している。健常者およびアルツハイマー病の病因遺伝子であるプレセナリン遺伝子異常を有するiPS細胞それぞれからアルツハイマー病の好発部位である前脳神経細胞領域への分化を試みたが、ともに神経細胞への分化をMAP2およびβIII-tubulinによる蛍光免疫染色により明らかにした。しかし、前脳細胞は他の領域(中脳、後脳など)と比較して分化効率が低いことが以前の検討から明らかとなっていた。特に、iPS細胞から神経細胞前駆体のNeurosphereを調整するステップではNeurosphere形成効率が非常に低く障壁となっていた。これらは、Neurosphere形成時に低吸着培養ディッシュを用いることで形成過程にあるNeuronsphereが低面へ接着、異なる細胞へ分化することを抑制することで改善することが出来た。しかしながら、依然として前脳神経細胞への分化効率は低く、回収可能な細胞数は少ない。そこで、前脳神経細胞のみではなく、コントロールとして中脳領域の神経細胞への分化を試みた。中脳神経細胞への分化効率は非常に高いため、これらを用いて、各種解析の条件検討などを並行して行っている。また、これら神経細胞のコレステロール代謝・カルシウム代謝に関連した蛋白質の発現解析を行っている。 これら神経細胞を用いて、コレステロール代謝に関連した解析を行った。当初の計画にあった、細胞内コレステロール量を減少させる検討については、細胞内コレステロール量が少ないことから解析が難しい現状にあるが、代替案として細胞内コレステロール量を増加させることに成功した。現在Aβの発現量をウエスタンブロッティングにより解析を行っているが、検出感度に満たないため細胞量を増加させるなど検討を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
はじめに、Aβの定性・定量を可能にする。特に、免疫学的手法(ELISA法)により解析を行い、細胞内コレステロール量増加に伴いAβ産生に変化が現れるかどうかを明らかにする。この時、Aβ産生に関わるBACE1 (β-secretase)および細胞内コレステロール代謝に関与するABCA1 (ATP-binding cassette transporterA1)の発現量を明らかにする。 次に、細胞内コレステロール増加の原因を明らかにする。アルツハイマー病においては、Aβ産生の以前に神経細胞内でカルシウム濃度が上昇し電気的激発活動が起きていることが近年の報告により明らかになりつつある。まずは、アルツハイマー病患者由来iPS細胞から分化誘導した神経細胞(前脳、中脳)において細胞内カルシウム濃度上昇を認めるのかどうか、カルシウムイメージング法または、マルチ電極チャネル解析(MEA)を用いた解析により明らかにする。さらに、これらカルシウム濃度上昇に伴い、カルパイン活性が上昇しているのかどうかを明らかにするとともに、ABCA1発現量との関係をウエスタンブロッティングにより明らかにする。 最後に、これらの結果を集約し、細胞内コレステロールが増加したiPS細胞由来神経細胞に対し、各種アポリポタンパク(apoE2, E3, E4)を添加することで、細胞内コレステロールの引き抜きの程度、およびその時にAβ産生量の変化を解析し、アルツハイマー病発症の最も重要なリスクファクターであるapoE4との関係を明らかにする。
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Research Products
(1 results)