2017 Fiscal Year Annual Research Report
Evaluation of disaster and policy-Examination of hedonic approach using program evaluation method
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17H07139
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
行武 憲史 日本大学, 経済学部, 准教授 (80804690)
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Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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Keywords | プログラム評価 / ヘドニックアプローチ / 福島原発事故 / 固定資産税特例 |
Outline of Annual Research Achievements |
非市場財を定量評価するヘドニックアプローチには、環境の変化が起こった地域はもともと変化が起こりやすい環境でありうるという内生性の問題が存在する。この問題を解決するため、近年ヘドニックアプローチに、プログラム評価手法を適用する研究が増加している。こうした手法の適用は、ヘドニックアプローチの別の仮定である、市場の単一性や時間に対する安定性を脅かす可能性が高い。本研究では、プログラム評価手法の適用にあたって必要な諸条件と得られる推定結果の解釈について理論的な整理をし、福島第1原発事故による放射能汚染の影響と、固定資産税軽減特例の評価の2つのテーマについて実証分析を行っている。 原発事故の地価に対する影響を分析した既存論文は、対象期間が比較的短期の分析となっている。時間の経過とともに放射能汚染の状況や、人々の汚染に対する評価は変化しうるため、本研究では、対象期間を2012年第4四半期として放射能汚染の地価に対する長期の影響を検証した。その結果、放射能汚染の地価に対する負の影響は1年ほどで消失することが確認された。このことは、汚染の影響の評価において、状況の変化を適切に把握することの重要性を示している。 固定資産税特例については、初年度は固定資産税制度および分析手法の理論的のサーベイを行うともに、必要なデータの収集及びクリーニングを行う予定であった。サーベイの結果、当初予定したDIDモデルでは分析に必要な仮定を満たさないことが判明し予備分析でも十分な検証にいたらなかったため、モデルの再構築の必要が生じている。また、新規モデルでは公示地価データでは標本サイズが十分でない可能性もあるため、代替データの収集が必要となった。そのため、データ収集・整備のためのアルバイト費用を中心とした交付金の繰越を必要とするものである。これによって、30年度は研究の精度の向上が期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、プログラム評価手法を用いたヘドニックアプローチについての理論的な整理をしつつ、福島原発事故および東京都における固定資産税新築特例の2つのテーマを対象に実証分析を行うことを目的としている。 福島原発の影響についての検証は、順調に研究が進みすでにその成果は論文として海外ジャーナルに掲載されている。 一方で、固定資産税の新築特例の評価については、当初計画では、平成29年度内に文献サーベイおよび予備分析、予備分析に基く本分析のためのデータ収集及び整備を行う予定であった。しかし、文献サーベイの結果、当初予定していたDID分析に必要な仮定が満たされておらず結果の解釈が制約的なことが判明した。そのため、分析モデルの再検討およびそれに適したデータの構築に当初予定よりも時間を要している。 そのため、研究全体の状況はいくぶん遅れていると判断することもできるが、事前準備を堅実に行っているため、モデルの再構築を経ても分析には十分な期間がある。また、プログラム評価手法の適切な適用が本研究の主眼であること、福島原発の分析は当初の予定通りに進行していることを鑑みると、研究全体としては順調であると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度の研究の推進方策は以下のとおりである。 第1に、人々の移住が与えた影響についての検証を行う。ヘドニックアプローチにおいて人々の放射能汚染に対する評価と市場の限界価格が一致する条件のひとつに、消費者の質が均一であるという条件が存在する。実際は、小さな子供を持つ家族は汚染の深刻な地域から避難する一方で 、高齢者は汚染地域にとどまる傾向が指摘されており、この仮定が満たされていない。そこで、国勢調査等のデータを用い、汚染された地域から 移動した人やとどまった人の属性を考慮した分析を行う。 第2に、固定資産税特例の効果の検証においては、当初予定してたDID分析では、政策の効果が政策を実施しない地域に波及しないという仮定を満たしていない可能性があった。そこで、この仮定をクリアするSynthetic Control Analysisを用いて、固定資産税特例の効果の検証を行う。
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