2017 Fiscal Year Annual Research Report
日本近代文学における異文化圏への越境に関する研究―永井荷風の文学活動を中心に
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17H07171
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
岸川 俊太郎 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 助手 (90802075)
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Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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Keywords | 日本近代文学 / 永井荷風 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題を達成するために、本年度は、永井荷風に関する一次資料(全集未収録書簡等)の収集、調査、分析に基づく基礎的研究を行った。その一例として、市川市文学ミュージアム(於・千葉県市川市)に寄贈された永井荷風の未発表書簡(大賀渡宛)の翻刻作業を行った。同書簡は、1945年の3月の空襲によって自宅である偏奇館を失い、流浪の生活を余儀なくされた戦争末期の荷風の心境を把握する上で、欠かすことのできない資料であるといえる。同書簡の翻刻は、2017年11月3日から2018年2月18日まで開催された「永井荷風展-荷風の見つめた女性たち-」(市川市文学ミュージアム主催)の図録に収載された(『永井荷風展-荷風の見つめた女性たち-』、川本三郎監修、市川市文学ミュージアム編集・発行、2017年、68頁)。 また、同展覧会に展示された谷崎潤一郎の全集未収録書簡(永井荷風宛)についても翻刻作業に当たった。文壇の潮流から距離を取り、自らの創作活動を続けた荷風にとって、終生続いた谷崎との交流は重要な文学的意味をもつ。同書簡は、これまで不分明な点が残されていた戦争末期の荷風と谷崎の交流をうかがい知る上で貴重な証言をなすものといえる。上記の研究調査を通して、戦争末期の荷風及び谷崎の動静について新たな知見を得ることができた。 上記を含めた一連の資料調査を通して、本年度は、次年度の研究活動につながる基盤的研究を進めることができたと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、明治期から昭和期にかけて活躍した永井荷風(1879~1959)の文学活動を解き明かすことで、異文化交差をめぐって日本の近代が経験した様々な問題を意味づけ直すことにある。上記の研究課題を達成するために、本年度は、研究課題に関わる専門書や同時代資料の収集を積極的に行うとともに、古書市場における荷風の一次資料の発掘に努めた。一連の資料調査から、荷風文学の実態について新たな知見を得ることができた。以上の基盤的研究の成果に基づきながら、荷風に関する同時代資料の更なる調査を進め、荷風の文学活動を異文化交差という視点から追究することで、本研究課題の達成につなげたい。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は、明治期から昭和期にかけて活躍した永井荷風(1879~1959)の文学活動を新資料の収集、調査、分析を通して明らかにすることで、異文化交差をめぐって日本の近代が経験した様々な問題を再検討することにある。上記の研究目的を遂行するために、今後は、荷風の関係資料を所蔵する文学館、図書館、研究施設等での研究調査を視野に入れ、荷風文学の一層の考究に努めたい。その上で、資料収集、調査、分析から明らかにされる基礎的研究の成果を基にして、荷風の創作活動と異文化受容との多様な関わりについて追究する。荷風の文学活動の同時代的意義を明らかにすることを通して、日本近代文学における異文化圏への越境の問題に新たな光を当てることで、本研究課題を達成したい。
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