2017 Fiscal Year Annual Research Report
歴史生態学から見るメラネシアの人間-サンゴ礁関係:ソロモン諸島の海上居住民の事例
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17H07176
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
里見 龍樹 早稲田大学, 人間科学学術院, 専任講師 (30802459)
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Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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Keywords | メラネシア / サンゴ礁 / ソロモン諸島マライタ島 / 歴史生態学 / 自然環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度における研究課題は、メラネシア(南西太平洋)のサンゴ礁で独特の海上生活を営むアシ(海の民)と呼ばれる人々を対象とし、人間生活と自然環境の相互構成の歴史に注目する「歴史生態学」のアプローチをとることで、「人間-サンゴ礁関係の文化人類学」という新領域の開拓を目指すものであった。具体的な研究項目としては、①アシにおけるサンゴ礁の民俗生態学、②メラネシアの歴史の中の人間-サンゴ礁関係、③アシの漁撈活動および慣習的海洋資源管理の歴史と現代的変容、④環境変動や自然災害との関わりにおける、アシの海上居住の歴史と現状、を設定し、それぞれの主題について検討を進めた。2018年度は、主としてこれまでの調査で収集したデータ、および理論的文献に基づいて研究を進め、これらを補足するため、2018年3月にはソロモン諸島で2週間の現地調査を行った。2018年度の調査・研究からは、現代の海面上昇や海洋資源の減少といった環境変動の下、アシの人々が、自らのサンゴ礁居住を危機に瀕したものとして認識していること、しかしその反面で、この人々が、サンゴ礁生態系の持続可能性に対して明確な信頼を抱いていることが明らかになった。これらの知見は、論文「『沈む島』と『育つ岩』――あるいは、『生き存えること』の人類学」としてまとめ、2018年1月、雑誌『現代思想』に発表した。また、2018年2月にはAssociation for Social Anthropology in Oceania Annual Meetingに参加し、同様の研究成果の概要について報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
主としてこれまでの調査で収集したデータ、および理論的文献に基づいて研究を進め、これらを補足するため、2018年3月にはソロモン諸島で2週間の現地調査を行った。結果的には当初の見込み以上の成果をあげることができた。2018年1月には、雑誌『現代思想』に、「『沈む島』と『育つ岩』――あるいは、『生き存えること』の人類学」という論文を発表した。同論文は、海面上昇をはじめとする現代の環境変動の下で、マライタ島のアシの人々が自らの生存あるいは文化的生活様式の持続可能性についてどのように認識しているかについて、民族誌的かつ理論的に考察したものである。次いで2018年2月には、米国で開催されたAssociation for Social Anthropology in Oceania Annual Meetingにおいて、Affect and Place in the Contemporary Pacificと題された分科会に参加した。同分科会では、サンゴ礁生態系の破壊など現代の環境変動をめぐるアシの体験について、「情動」をめぐる人類学理論を手がかりに考察する可能性について論じた。同分科会は、コロンビア大学のPaige West教授らとの協力の下、2019年にも継続して開催することが決まっている。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年8月にソロモン諸島で1か月間の追加調査を行い、マライタ島のアシにおけるサンゴ礁生態系の認識に関して、これまでの知見を補足するデータを得ることを計画している。これによって得られた知見を、European Society for Oceanists(2018年12月)、Association for Social Anthropology in Oceania(2019年2月)などの国際学会で発表する。またその成果を論文として執筆し、学会誌『文化人類学』に投稿することを予定している。
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