2017 Fiscal Year Annual Research Report
子どもの表現活動の意義を考察する―東欧の子どもの表現活動を手掛かりに―
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17H07209
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Research Institution | Kanazawa Gakuin University |
Principal Investigator |
南雲 まき 金沢学院大学, 文学部, 講師 (40806626)
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Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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Keywords | 美術教育 / 表現教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度はポーランドで戦時中の表現活動の背景としての、子どもの生活について調査を行った。主に「ワルシャワ蜂起博物館(Warsaw Rising Museum)」と「ポーランド・ユダヤ人歴史博物館(Museum of the History of Polish Jews)」での調査研究を行い、第二次世界大戦時にポーランド人とポーランド在住のユダヤ人、特に少年兵、郵便兵、看護兵として働いていた子どもの生活について調べた。それらの情報をもとに、第二次世界大戦中にポーランドで描かれた子どもの絵の分析を行った。 分類の結果、年齢に関わらず、それらの絵画の多くが子ども自身の生存の危機にさらされ、家族の多くの生死に関わる内容であり、手記とともに残された形のものが最も多かった。次に多かったものが、遊びや豊かな食事など、平穏な生活を希求する内容のものであった。絵画を描くための物資も十分ではなく、食事も十分ではなく、労働に明け暮れ、生存の危機にさらされるなかで、子どもたちが絵画表現を行うことの意味について考察を深めることができた。 ①他者への伝達②自己の内面の整理③精神の安定の三点に大きく分けて、困難な状況下にある子どもの絵画活動の意味について考えると、それらが相互に作用しあい、子どものレジリエンス、生きる意欲をかき立てることに影響していると考えられる。子どもが生きるということと、表現するということの強いつながりを確認することができた。 また、現在のポーランドの美術教育、特に初等教育についても調査を行った。ポーランドの小学校図工に相当する教科は小学校6学年の1~6年までが学ぶ教科であり、専科がいる学校がほとんどなく、担任が指導する。日本との共通点が多く、比較研究がしやすいと考える。教科書の収集を行い、本年度で比較を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画通り、ポーランドで「ワルシャワ蜂起博物館(Warsaw Rising Museum)」と「ポーランド・ユダヤ人歴史博物館(Museum of the History of Polish Jews)」での調査研究を行い、第二次世界大戦時にポーランド人とポーランド在住のユダヤ人、特に少年兵、郵便兵、看護兵として働いていた子どもの生活についての調査分析を行うことができた。また、それらの情報をもとに、第二次世界大戦中にポーランドで描かれた子どもの絵の分析を行うこともできた。 日本の美術教育を問い直すために東欧、特にポーランドとの比較研究を行うという点でも、日本の図画工作の教科書と、ポーランドの図画工作に相当する教科書を入手できたため、今後、比較研究をするための材料を十分確保することができた。 教科書と、収集した資料の翻訳については、初等教育、美術教育を専門としており、かつポーランド語に通じた研究者がなかなか見つからなかったため、昨年度は翻訳を依頼することができなかったが、本年はワルシャワ大学を中心に、言語学、芸術学の教員からの協力を仰ぐことでそれらの課題を解決することができると考えられる。 また、日本での自由画教育運動の研究についても、山本鼎記念館の閉館に伴い、大量の資料が上田市立美術館に管理を移管するにあたり、資料の分類、整理に関わることができた。自由画教育運動の軌跡を追うなかで、従来、日本の美術教育において「臨画」と「自由画」の対立の視点があったが、その移行期にはその変遷は比較的ゆるやかなものであり、当時の子どもの絵画にも、そのどちらの影響も強く見て取れるということがわかった。これらの資料は日本の美術教育を問い直す上で非常に重要な資料であり、本研究の内容に直接関係しない点も今後、追って調査と研究を続けていく必要を感じる。その点においては予想以上に研究の進展があったと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度に引き続き、ポーランドを中心とした東欧諸地域で第二次世界大戦時の子どもの絵画収集を行い、それらの分析を行う。また、今までに収集した資料を整理、分類して研究を行う。昨年度に分析を行った結果①他者への伝達②自己の内面の整理③精神の安定の三点に大きく分けて、困難な状況下にある子どもの絵画活動の意味について考えることができるという結論に達した。また、それらが相互に作用しあい、子どものレジリエンス、生きる意欲をかき立てることに影響していると考えられる。子どもが生きるということと、表現するということの強いつながりを確認することができた。 この結果の分析を深め、子どもの絵画表現全体に通じる普遍性を模索していき、最終的には子どもが何故、なんのために表現活動を行うのか、表現活動が子どもにどのような変化をもたらすのかを明らかにし、美術教育が教育のなかで担う役割を明確にした上で教員養成課程での教育に反映させていくこととする。また、現在のポーランドの美術教育と日本の美術教育の共通点や差異点を比較し、検討していきたい。そのために、ポーランド現地で美術教育を受けた方の聞き取りが必要かと考えるため、今後の調査計画にそれらを組み込んで進めていくこととする。 昨年度のポーランドでの研究調査の結果として収集した情報のうち、第二次世界大戦中の子どもの絵画、子どもの手記、現在の図画工作の教科書がある。日本については、上田市立美術館を中心にした調査研究で、山本鼎の自由画教育運動の関連書籍、論文、諸記録、同じく農民美術運動の記録を入手することができた。また、所蔵されている自由画教育運動が始まった当初の小学生の絵画の実物を多く見て、記録することができた。 今後はこれらの分析を進めながら、多くの情報のなかから本研究の研究成果に直接つながるものを取捨選択し、大学美術教育学会の論文や報告書にまとめていくこととする。
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